あらすじ
善作(小林薫)は木之元(甲本雅裕)たちの助けを借りて病院通いを続けていたが、恥ずかしさのあまり周囲には人助けをしようとしてのやけどだと偽っていた。一方戦地の勝(駿河太郎)からはがきが届き、糸子(尾野真千子)は、やはり無事を祈らずにはいられない。ある日モンペ教室に八重子(田丸麻紀)が現れる。戸惑う糸子の前で、八重子は黙々ともんぺを作る。帰る前に八重子は泰蔵(須賀貴匡)の出征が間もなくであると告げる。
64回ネタバレ
小原家
玄関前
木之元「よっしゃ ほな 行くで!」
昌子「あ 行ってらっしゃい。」
千代「ほな 行ってきます。」
<お父ちゃんの病院通いは 商店街の おっちゃんらが 持ち回りで 手伝うてくれました>
糸子「気ぃ付けて!」
木之元「は~い!」
糸子「行ってらっしゃ~い。 フフフ。」
病院
待合所
木之元「いっぱいや…。」
「ここ どうぞ!」
木之元「お こらこら すんません。」
千代「すんません。」
善作「すんません。」
木之元「よし ほな 善ちゃん 座らしてもらおうや。 な。 ゆっくりやで ゆっくりやで。 うん あ よいしょ。 あ… うん。 おおきにな。 お宅も けがしてんのに。」
「あ~ いや 僕 足は 何ともないよって。」
木之元「それ 戦地でかいな?」
「はい。 そちらさんは 事故か何かですか?」
木之元「やけど なんや。 近所で たき火をしちゃあった おばあさんがな。 うっかり 火ぃの中に こけてもうたんを この人 善ちゃんが 慌てて助けたんやて。 おかげで おばあさんは 無事やってんやけど 善ちゃんが こない ひどい やけどを 負うてもうたっちゅう訳や。」
「はあ~ それは 大変でした。 けど 立派ですねえ。」
善作「いえいえ…。」
「いや~… ほんまに 立派な人や!」
<その大嘘は 全部 お父ちゃんが仕込んだもんです>
小原家
2階 座敷
善作「今日のあれ… ええように言い過ぎたのう。」
木之元「ほうか?」
善作「何ぼ『肩身が狭い』ゆうたかて あっこまで言うたら 格好つけ過ぎや。 あの若いのに… 悪い事したで。」
木岡「ほんな もう 次は 潔う ほんまの事 言いいや。」
善作「いや~ それはそれで 不細工や。」
木岡「かまへんがな。 誰が 気にすんねん。」
善作「わしよ…。」
木之元「は?」
善作「お前… 周りの みんな若い奴が お国のために戦うて… 大けがして 帰ってきてよ このわしだけが『ボヤで やけどした』て そんな お前 大の男が 恥ずかしいて よう言わんでえ。」
木岡「は~! 気ぃ若いのう 善ちゃんは。 いちいち 若いもんに張り合うて 不細工やら 恥ずかしいやら 思とったら きりないって。」
木之元「しゃあけどの 何で ガダルカナルからは 転進しよったんやろなあ?」
木岡「そら 日本が負けたからに 決まってるやないか。 転進やなんて 調子のええ言い方してるけど 敗退やろ ほんまのところは。」
木之元「ほんまけ?」
善作「勝… そんなとこ 行ってへんかったら ええんやけどなあ。」
オハラ洋装店
<その勝さんから 葉書が来ました>
糸子「元気そやな…。 ちょっと 昌ちゃん。」
昌子「はい。」
糸子「大将から 葉書や。」
昌子「へ?! 大将から?!」
糸子「子供らに読んじゃって。」
昌子「そら 先生が 読んじゃったら ええやないですか。」
糸子「うちが読むより あんたが 読んだ方が 子供らには ええねん。」
昌子「はあ? ああ そうか 先生が読んだら 声に 余計な恨みが 籠もってまうよってなあ。」
糸子「要らん事 言わんでええさかい はよ 上 行き。」
<うちにとっては 腹立つ浮気亭主でも 子供らにとっては 恋しい お父ちゃんです>
2階 寝室
昌子「『優子 直子 そして おなかの子』。
<無事で帰ってきてくれんと 困ります>
昌子「『1月8日 父は 無事に…』。」
オハラ洋装店
<どうか無事で… いや… どんだけ変わり果てた姿に なったかて 帰ってさえきてくれたら どっさり食べさして ゆっくり寝さして 元気にさして>
糸子「ほんでから こってり 油 絞っちゃるんや! あ… あ~! ああ?! どないしよ~?! あ~。」
<ところで モンペ教室は 繁盛してました>
昌子「はい 次の方!」
「悪いけどな 今日は 1円しか払われへんやし あとは これで どないか 堪忍して もらわれへんかの?」
昌子「はあ ほな 今日だけ また 次 持ってきて下さい。」
「おおきに!」
昌子「はい。」
「こんにち…。」
昌子「はい! 今の人で 定員いっぱいです。」
「えええ? 何でよ? ちょっと 定員って 何人よ?」
昌子「8人です。 また 次 木曜あるんで そん時 来て下さい。 おおきに。」
「もう しゃあないな。」
昌子「すんません。」
「木曜やな!」
ヤス子「ちょっと うち 木曜やったら 間に合わへんやし。 隅っこの方で ええさかい 頼むわ なんとか座らしいてえな。」
昌子「せやけど 狭なるし 他のお客さんかて 場所…。」
ヤス子「頼むて~! このとおりや!」
昌子「いや せやけど…。」
ヤス子「な?!」
ヤス子「せやねん。 うっとこも 3人目の息子が あさって 出征やし。」
「あれまあ 3人目も?」
ヤス子「ほんでな このモンペ教室の話 聞いて 慌てて来たんや。 ちょっと見て これ。」
「ハハハ こら 上等や!」
ヤス子「入学式やら 卒業式やら よう着た着物やさかい これ 着て 見送っちゃりたい 思てな。」
「まあ そら 間に合うて よかったなあ。」
ヤス子「せやなあ。」
糸子「こんにちは。」
一同「こんにちは。」
糸子「え~ 皆さん 今日は ようこそ いらっしゃいました。 まだまだ 寒い日が続きますけど 昨日 ひょっと見たら 裏のお宅の梅が ちらほら 咲きだしてました。 まあ 春が来るんも そない先の話と ちゃいます。 皆さんには つつましい暮らしの中でも 是非 おしゃれを 楽しんでもらいたい。」
糸子「入学式や結婚式 はたまた 息子さんや旦那さんを 戦地へ送り出す日ぃに 少しでも明るく パリッとした気持ちになれる そういうモンペを 着てもらいたい。 ほんな訳で この『着物に戻せる モンペ』ちゅうのを 考えました。 皆さん どうぞ しっかり覚えて 帰って下さい。 ほな 早速 モンペ教室 始めさしてもらいます。」
一同「お願いします。」
(拍手)
八重子「すんません! すんません… モンペ教室に 参加さしてもらえませんやろか?」
昌子「すんません 今日は もう 定員いっぱいで…。」
八重子「お邪魔しました…。」
糸子「あの! 一人ぐらいやったら 座れん事も ないです。」
ヤス子「あ… ギュウギュウやけどなあ。」
糸子「すんません 木村さんと山本さん ちょっと こっち 詰めちゃって もらえますか? すんません~ん。」
八重子「すんません すんません 無理 言うて。 ほんまに おおきに!」
糸子「ほな 着物 バラしましょか。」
「小原さん あかんわ。 やっぱし うち よう切らんわ。」
「うちも ようせんわ~。」
糸子「そやなあ。 やっぱし ず~っと 大事にしてきた着物やさかい ここで みんな そう言うわ。」
「せやろ?」
糸子「けど また 必ず 着物に戻せるよって 怖がらんと切ってよ。 な?」
「うん。」
ヤス子「ええもん でけて よかったなあ。」
「お宅も 息子さん さぞかし 喜ぶで。」
ヤス子「まあ けど あんた 息子なんちゅうなもんは 親の着物なんか 何も見てへんもんやしなあ。」
「そら うちもやで。 しゃあない しゃあない。」
ヤス子「せやな。 ほな 小原さん おおきにな。」
「おおきに。」
糸子「おおきに また来てな。」
ヤス子「さいなら。」
「どうも。」
昌子「先生 ほな うち 奥 見てますよって お客さん 来たら 呼んで下さい。」
糸子「うん。」
りん「先生 何か 直ちゃんが…。」
昌子「あとにしい!」
りん「へ? 先生 暇そうやのに?」
昌子「アホ! あれは 暇なんと ちゃう。 邪魔しな!」
八重子「あの…。 今日は おおきに。」
糸子「こっちこそ… おおきに。」
八重子「泰蔵さんが…。 あさって 出征する事になりました。 せやから 見送っちゃるためのモンペを ここで 糸ちゃんに教わって 作りたかってん。」
糸子「そうでしたか…。」
八重子「厚かましいかも しれへんけど。 一緒に 見送っちゃって もらえませんでしょうか? お母さんも 勘助ちゃんも 多分 よう見送らんと思うねん。 泰蔵さん つらいと思うんやし。」
八重子「今どき 見送りは そない 派手にしたら あかんやろけど せめて 戦地で思い出した時に ちょっとは 明るい気持ちになれるような ええ思い出 作っちゃりたいなあと思て…。 糸ちゃん 一緒に 見送っちゃって もらわれへんやろか?」
糸子「ええの?」
八重子「うちが 頼んでるんや!」
糸子「勘助に あんな ひどい事 してしもたのに? 八重子さんに あんな ひどい事 言うてしもたのに? うちが 泰蔵にいちゃん 見送っても ええの?!」
八重子「糸ちゃん… ごめんな。」
糸子「何で 八重子さんが謝るん?『ごめんな』は うちや。 ごめんな 八重子さん。 ごめんな!」
八重子「分かった 糸ちゃん! 分かった おおきに! おおきにな…。 糸ちゃん。 あさって 来てな。 きっと 来てな! よろしく お願いします!」