ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第66回「切なる願い」【第11週】

あらすじ

ようやく回復してきた善作(小林薫)が無理をしないかと、糸子(尾野真千子)は不安でしかたがない。そこへ善作の友人の木岡(上杉祥三)が石川県の温泉旅行を持ちかける。糸子や千代(麻生祐未)は心配するが、善作は旅行を楽しみにしており、しかたなく糸子は国民服を新調し、酒を持たせて送り出す。その夜、善作が書いたらしい「店主・小原糸子」の字を帳簿に見つけ、もの思いにふける糸子のもとに、善作危篤の電報が届く。

66ネタバレ

小原家

座敷

優子「お~じいちゃん。」

善作「お~お 優ちゃん。 今日から 小学校け?」

優子「うん。」

善作「どれ もっと おじいちゃんに 見してえな。」

善作「ほう~ このごろの小学生は そんな格好で 学校 行くんけ?」

優子「そうや。 お母ちゃんが こさえてくれてんで。」

善作「へえ~。 せやけど 何や ブカブカやな。」

優子「お母ちゃんが『こんで ええ』って言うた。『すぐ大きなるさかい』って」

居間

善作「何で もっと ピッタリに こさえちゃらへんねん?」

糸子「すぐ 大きなるさかい。」

善作「大きなったら また 大きいのん こさえちゃったら ええやないかい。」

糸子「うち 忙しいし。」

善作「アホ! 何のために 母親が 洋裁屋 してんや。 子供の制服ぐらい お前 吉ッと縫うちゃらんかい!」

糸子「せや。 な 優子の髪 切ってもええ?」

善作「ああ?」

糸子「いちいち 毎朝 おさげに結わんならんの めんどくさいよって 直子みたいに ピシ~ッと おかっぱにしたら ええねん。」

善作「あかん。」

糸子「何でやねんな! 子供は おかっぱが ええやんか。 一番かいらしいやんか。」

善作「やかましい! あかんちゅうたら あかんのじゃ! 勝手に切ってみ… 承知せんど。 なあ~ 優子ちゃん。」

台所

糸子「ちょっと元気になったからって 朝から ガミガミ ガミガミ…。 ほんま ヨレヨレ 寝とってくれるぐらいが おとなしいて ちょうど よかったわわ!」

玄関

善作「優ちゃ~ん 行っちょいで~!」

<まあ ほんな罰当たりな事 言えるんも ここに来て やっと お父ちゃんの具合が ようなってきたからやけど。 途端に また張り切って 動こうとしたがるよって 危なっかしいて かないません>

2階 座敷

善作「温泉?」

木岡「石川県のヤマギワ温泉ちゅうとこや。 こないだ 靖が行ってきよってな えらい ええとこやったらしいで。『善作さんかて のんびり 湯につかって うまいもんでも 食うたら ええ療養に なるんちゃうか』ちゅうて 言うちゃったわ。」

善作「そら ええがな。 行こや!」

木岡「へっ?!」

善作「季節もええし ちょうどええで。」

木岡「いや ほやけど 石川県やさかい ちょっと遠いで。 まだ そんな 体 無理 きかんやろ?」

善作「いんや! 家で じ~っとしてたらな 気がめいって 具合悪い。 温泉が 疥癬に効くんやったら 一石二鳥や。 行こや。」

木岡「ほうか? よっしゃ! ほな 木之元も奥中も 誘おか?」

善作「おう 誘え 誘え! 楽しみやな!」

居間

糸子「温泉?」

千代「ふうん。」

糸子「あかん あかん そんなん! まだ ちゃんと治った訳 ちゃうのに ここで そんな むちゃしたら また 前と同じ事に なるんやで! ほんまに もう… ああ!」

2階 座敷

糸子「お父ちゃん あかんで 温泉なんか…。」

木岡履物店

美代「やめときて。 あんた もしもの事があったら どないすんのんな?」

糸子「けどな お父ちゃん さっき 寝ながら ごっつ うれしそうな顔 してたんや。」

木岡「そやろ? わしも さっき ちら~っと話した時 善ちゃん 久しく 見せた事のないような顔で こう ニタ~っと 笑いよってん。 ほんで わしも『よっしゃ! こら 絶対 連れてっちゃろ』と思てもうてな。 ハハハハハ!」

美代「やめときて!」

小原家

オハラ洋装店

糸子「お父ちゃん! 何してんの?」

善作「衣料切符の貼り付けや。」

糸子「ええて そんなん せんでも 寝ときて。」

善作「かめへん。 これが わしの仕事や。」

<すっかり元どおり ちゅう訳には いかんにしても だいぶ 顔も 手つきも しっかりしてきてる すっかり その気になってるもんを 無理やり やめさしても ええ事 ないかもなあ…>

2階 座敷

糸子「しゃあない。」

オハラ洋装店

(ミシンの音)

<まあ せめてもの お守り代わりや>

(ミシンの音)

<うちは お父ちゃんに 新しい国民服を 縫うてやる事にしました>

出発当日

木之元「おはようさ~ん!」

ハル「おはようさん。」

善作「おう おはようさん。」

木之元「ちょ ちょ… えっ これ 新品け?」

善作「糸子が 縫いよってん。」

3人「へえ~!」

木之元「お父ちゃんの旅行のためにけ? 孝行な事 すんのう!」

善作「これ 純毛らしいで。」

木之元「えっ 純毛? うわ! さすがやなあ~。いや 今どき 純毛なんか ないでなあ!」

木岡「ほうよ。 やっぱり 持つべきもんは 洋裁屋の娘やの。」

木之元「あ~ほんまや。 ちょっと待て。 その足は 何?」

千代「足 足。」

木之元「足は 何?」

台所

善作「おい。」

糸子「何や お父ちゃんか。 何?」

善作「ううん…。」

糸子「うん? 何や?」

善作「何や…。」

糸子「えっ?」

善作「ご… ごっつい ええなあ ぬくいし…。」

糸子「ああ そうか…。 そんだけ?」

善作「あ… いや… あの…。 まだ お前にな ちゃんと 言うてなかったさかい。」

糸子「何を?」

善作「せやから… 礼や 服の。」

糸子「ああ… 何や ええよ! お父ちゃんに 礼なんか言われたら こそばいわ。 あっ せや。 これ!」

善作「何や? お茶か。」

糸子「お茶 ちゃう。 お水や。 お父ちゃんの大好きな お米で でけた お水。」

善作「お?! お前 まだ こんなもん 持っとったんけ?」

糸子「取っといたんや。」

善作「おおっ! お おおきに。 おおきにやで 糸子。 お~い! おいおい ごっつ ええ せん別 もろたで!」

糸子「言えるやんか『おおきに』て。 酒には 素直に『おおきに』て 言いよって。 やっぱし うちが作った服より 酒のが うれしいんやろか…。」

玄関前

千代「くれぐれも 気ぃ付けて。」

善作「分かってる。」

糸子「ほな お父ちゃん よろしゅう頼んます。」

千代「お願いします。」

糸子「行ってらっしゃい。」

善作「ほな 行ってくら!」

3人「行ってくら!」

糸子「行っちょいで! 気ぃ付けてな!」

優子「行ってらっしゃい おじいちゃん!」

「行ってらっしゃい~!」

「行ってらっしゃい~!」

オハラ洋装店

(小鳥の鳴き声)

(ミシンの音)

糸子「これ… 誰が 書いたんや? 昌ちゃん?」

昌子「はい。」

糸子「あんた これ 書いた?」

昌子「はあ? うちが 書きますかいな そんなもん。」

台所

ハル「善作や。」

糸子「お父ちゃん?」

ハル「うん 間違いない。 善作の字ぃや。」

糸子「え…? お父ちゃん… いつの間に こんなん 書いたんや?」

オハラ洋装店

糸子「オハラ洋装店 店主 小原糸子。」

<うちは 何や 初めて お父ちゃんに 認めてもうたような 気がしました>

(戸をたたく音)

『小原さん 電報です!』

糸子「はい!」

玄関

「はい 電報です。」

糸子「ご苦労さんです。」

「失礼します。」

<落ち着け…。 まず どうする?『スグ コイ』ちゅうんやから 朝一番の電車で…>

糸子「せや… 旅館の住所 聞いとこ…。」

玄関前

糸子「おばちゃん?」

美代「ああ…。 そや… あれ?」

糸子「何や?」

美代「そうや 小原さん 今 温泉 行ってんのに 何でや? うち 今 しゃべっちゃあったわ。」

糸子「何て?」

美代「は?」

糸子「お父ちゃん 何て言うたん?」

美代「『糸子を よろしゅう頼む』て…。」

糸子「待って… お父ちゃん。 待って 行かんといて お父ちゃん!」

糸子「待って… 待って…。 行かんといて… 待って! 行かんといて! お父ちゃん! 待って お父ちゃん! お父ちゃん 待って~!」

<昭和18年4月27日。 享年 59でした>

(泣き声)

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