あらすじ
昭和20年正月。糸子(尾野真千子)は娘たちを連れて清三郎(宝田明)と貞子(十朱幸代)を訪ねる。清三郎が口にした、亡くなった善作(小林薫)に冷たく当たってすまないという言葉に糸子は驚く。貞子は生き延びるようにと糸子を励ます。バケツリレーなど消火訓練をして空襲に備える毎日だったが、3月14日の夜、ついに大阪への空襲が始まる。警戒警報のサイレンに、糸子は家族や縫い子らをしったし、懸命に防空ごうを目指す。
73回ネタバレ
小原家
<トンビしか飛んでなかった 岸和田の空に いかついもんが 飛び始めました。 昭和19年 暮れ アメリカの飛行機が 何度も 内地を 空襲していくようになりました>
松坂家
玄関前
リビング
糸子「せ~の…。」
3人「明けまして おめでとうございます!」
貞子「まあ~! 明けまして おめでとうございます。」
(笑い声)
清三郎「糸子! 何や 一人で来たんか? お父ちゃんらは どないした?」
糸子「え お父ちゃん?」
貞子「アハハハ! かなわんやろ? おじいちゃん このごろ めっきり この調子なんよ フフッ。」
糸子「そうなん。」
貞子「うん。 そら トンチンカンな事 言うから 今も あんたの事な まだ 女学生やと思うとうで なあ。」
正一「うん。 まだ 14~15の娘やと思とん 違うか。」
糸子「え~? おじいちゃん。」
清三郎「うん?」
糸子「うち 年 なんぼや?」
清三郎「うん? 30ぐらいか。」
糸子「分かってるで。」
貞子「時々 我に返るんよ。 返らんで ええ時に。 なあ。」
優子「あかん! うちの栗や!」
直子「うちのや!」
優子「あんたは もう 2個も食べたやろ?」
直子「食べてへんわ! 姉ちゃんのアホ。」
優子「何やて~!」
絹江「分かった 分かった。 けんか せんと 仲良う 食べ。」
優子「うちのやで! うちのや!」
直子「あかん あかん!」
絹江「分かったから。 たくさん あるやろ。」
糸子「こらっ! やめ!」
貞子「姫路の奥に うちの山荘があるの 知っとうか?」
糸子「山荘?」
貞子「おばあちゃんのお父様が 夏の避暑のために 建てたもん なんやけどな…。 そこへ しばらく 疎開しようかと思てな。」
糸子「はあ…。」
貞子「この年になって この家 離れんのは ほんまに つらいんやけどなあ。 おじいちゃんも あんな調子やろ? いざ ゆう事になったら 怖いからなあ…。 まあ そやから しばらくは 姫路のお山で 花でも 摘んでよか 思うてな。」
糸子「そうか そら ええなあ。 勇君らも 行くん?」
正一「いや わしと勇は 工場があるからな 神戸に残る。」
勇「そりゃ 糸ちゃん 僕なんか 工場の支配人ゆう肩書のある おかげで 召集 免れとんのやで。 工場 辞めるんやったら 姫路やなくて さっさと 戦地へ行けゆう話や。」
糸子「ああ…。」
清三郎「千代!」
糸子「え? おじいちゃん 今日は お母ちゃんは 来てへんで。」
清三郎「千代 おいで。」
貞子「あんたを 千代と思とんよ。」
正一「いいから 行ったり。『は~い』言うて。」
糸子「は~い。 何? おじい… お父様。」
清三郎「千代。」
糸子「ん?」
清三郎「千代…。 善作君には かわいそうな事 したなあ。」
糸子「へ?」
清三郎「このわしもな もとは言うたら 貧しい貧しい 一介の丁稚やった。 それを ここの松坂の父が 見込んでくれてな 貞子の婿にまで 引き上げてくれた。」
糸子「はあ…。」
清三郎「そやのに わしには そうゆう 懐ゆうもんが なかったんや。 甲斐性がない ゆうだけで あんな気のええ男を 毛嫌いして つろう 当たってしもた…。」
糸子「かめへんて そんなん…。 お父…。 善作さんは そんなん 何も 気にしてへんて。」
清三郎「なあ 千代…。 今日 うち 帰ったらな 仏壇に 手ぇ 合して よう拝んどいてくれ。 わしが… 松坂の父が『許してくれ』言うとったって。 なあ 千代…。」
糸子「分かった。 言うとくわな。」
貞子「ところどころだけは 合うてるな。」
玄関
勇「元気でな。」
正一「千代に よろしく 言うといてな。 おばあちゃんと 静子らにもな。」
糸子「うん。」
正一「また おいで。 ごんた娘さんら。 え? こら!」
直子「いや~。」
正一「ハハハハハ…。」
<この人らにも また もっかい 会う事が でけるやろか>
糸子「ほなな。」
貞子「糸子…。 あんた 生き延びや。 必ず必ず また 顔 見せてな。」
糸子「うん。 おばあちゃんも 元気にしててな。」
貞子「うん。」
<ちょうど そのころ B29が 初めて 大阪の市街地に 焼夷弾を 落としていったちゅう事を うちは 翌朝の新聞で知りました>
小原家
居間
糸子「『特徴は 焼夷弾を主体とした事で 敵は 今後も 重要工場施設のみでなく 市街地の盲爆を行う事も 考慮する必要がある』。」
光子「焼夷弾って どんなん?」
昌子「燃やすやつや。 バラバラ落ちてきて 家やら建物やら どんどん 火ぃ付けるんや。」
<敵は 思たより えげつない事しよる ちゅう事に やっと みんなが気付いて…>
岸和田商店街
「やあ!」
「よし 命中!」
<それから 町内でも 盛んに 防火訓練が 行われるようになりました せやけど ほんまに こんなんで どないか なるんやろか…>
「頑張れ!」
糸子「えい!」
「命中!」
<3月10日の未明に 東京に これまでで最大の空襲があって>
小原家
オハラ洋装店
昌子「先生?」
糸子「今度は 名古屋も焼かれたて。」
昌子「ええ~っ?!『今度こそ 来るぞ! 阪神夜襲』?!」
3人「え~っ!」
昌子「何? 何?!」
幸子「ええっ 次は うちら ちゅう事?」
りん「嫌や~ 怖い。」
幸子「どないしよう。」
トメ「はあ… はあ… はあ…。」
2階 寝室
<東京の空襲が 10日。 名古屋が12日>
(聡子の泣き声)
<今日は 13日>
(光子の泣き声)
清子「泣きな。 すぐに逃げたら 大丈夫やさかい。 な!」
<今夜か 明日か… と思てたら ほんまに来ました>
(警戒警報)
糸子「警報や!」
「きゃ~!」
「来た? 来た?」
「怖い 怖いよ!」
(警戒警報)
糸子「逃げな! 防空壕やで!」
幸子「トメちゃん!」
糸子「防空壕 行くで!」
昌子「先生 待って下さい トメちゃんが…!」
糸子「はあ?!」
昌子「『よう逃げん』ちゅうんです!」
糸子「え~っ?!」
(トメの泣き声)
昌子「トメちゃん トメちゃん!」
糸子「あんたら 先 防空壕 行き! お母ちゃん 行ってて! おばあちゃん ごめんやで。」
ハル「う~ん うん。」
「トメちゃん! トメちゃん!」
糸子「あんたらも 先 行き! はよ行け! トメちゃん!」
トメ「嫌です! うち よう逃げません!」
糸子「しっかりしい! あんた 早う逃げな 燃やされんやで?!」
トメ「嫌や~ 怖い 怖い!」
昌子「先生 早う!」
糸子「トメちゃん 立ち!」
トメ「嫌です! もう うち 燃やされても ええです! 逃げたないんです!」
糸子「トメ!」
ハル「うちが いといちゃら。」
糸子「はあ?!」
ハル「うちが 一緒に いといちゃる。」
糸子「『いといちゃる』て… いちゃあったかて しゃあないやろ 逃げな 焼かれんやで!」
ハル「泣きな 泣きな。 何も心配する事ないて。」
糸子「ああ もう あかん! 昌ちゃん 先 防空壕 行っといて! 早う行け!」
(警戒警報)
玄関
木之元「みんな 逃げたか~?!」
糸子「逃げてへん。」
木之元「うわっ 何してんや?!」
糸子「『どないしても 逃げたない』ちゅう子が いててな。」
木之元「何 言うてんや?! 逃げな 焼かれんやで!」
糸子「うん…。 まあ いよいよ 火ぃ付いたら 逃げるやろ。」
木之元「はあ?!」
トメ「先生…。」
糸子「ああ!」
トメ「すいませんでした 先生。 うちも 逃げます。」
糸子「行くけ?」
トメ「はい! おばあちゃん 燃やす訳には いきません!」
(泣き声)
ハル「泣きな ハハハハ…。」
糸子「おっちゃん 行くわ! ほな うちらも!」
木之元「おう おう。 あんな 東の方は もう いっぱいや 西の方に行け!」
糸子「分かった!」
木之元「うん!」
玄関前
<あ せや。 お父ちゃんの位はいと写真 持ってくんの 忘れた!>
糸子「トメちゃん 足元 気ぃ付けや!」
トメ「はい!」
<けど しゃあない。 堪忍や お父ちゃん。 縁があったら また会おうな>