ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第74回「生きる」【第13週】

あらすじ

大阪の空襲は岸和田までは来なかった。糸子(尾野真千子)は、近所の女性たちと消火訓練をする日々に戻る。ハル(正司照枝)や子どもたちのことを考え、糸子は郊外の空き家への疎開を思いつく。嫌がるハルや千代(麻生祐未)、子どもたちを移し、糸子は仕事の傍ら自転車で食料を運ぶ。疲れきっている糸子だが、朗らかな千代に一瞬、気持ちをほぐされる。一方奈津(栗山千明)は、無一文となり日々の食料にも困る暮らしをしていた。

74ネタバレ

小原家

居間

<岸和田には 焼夷弾は 落ちませんでした。 明け方に やっと 警報が解除されて>

糸子「お父ちゃん また会えたな。」

2階 寝室

糸子「よっしゃ! こんで 安心や。」

静子「何が?」

糸子「え?」

静子「安心なん?」

糸子「いや… まあ 安心て。 そら 何も 安心ちゃうけどな。」

<不安ばっかしです>

居間

(小鳥に鳴き声)

<岸和田は 空襲を免れたもんの>

糸子「『B29 約90機 大阪地区に来襲 大阪 尼崎に 焼夷弾を投下 火災を発生』。」

昌子「うわ~ やっぱし 大阪も 焼かれたんや。」

岸和田商店街

<週1回やった防火訓練は 週2回になりました>

澤田「気ぃ 抜くな! ほら 生きるか死ぬかや!」

美代「はれ 大丈夫け?」

澤田「こら! 続けて 続けて! はよ 立ちなさい!」

「ああ~!」

澤田「甘ったれるな! それでも 日本の女か!」

美代「ちょっと お宅!」

澤田「はあ 何ですか!」

美代「どなったら ええちゅうもん ちゃうやろ! 貧血や! 見て分かれへんのけ!」

澤田「B29は 130機も いてるんや! のんきに 貧血なんか 起こしてたら 焼かれてしまうて 言うてるんや!」

美代「せやから 貧血や!」

<せや B29は 130機も いてるっちゅうのに バケツの水なんぞ なんぼ まいたところで らち 明くかいな>

山中町

<まあ ほんまに 雨風 しのげるだけの ボロ家やけどな。」

(鶏の鳴き声)

糸子「いや けど 十分ですわ。 こんだけ広さもあったら。」

「夏んなったら ようけ 虫 出るで。 蚊やら ムカデやら。」

糸子「ムカデ? はあ そら 黙っときますわ。」

小原家

居間

静子「疎開?」

糸子「せや。 心当たりを 片っ端から 頼み歩いたら 1軒 使てない家を 貸してくれるちゅうて そういう人が 見つかってん。 おばあちゃんと お母ちゃんと それから 子供らは そっちで暮らすようにしよう。」

糸子「絶対 その方が 安全や。 うちらは 仕事があるあさかい 店 残らな しゃあないけど うちらも その方が いざっちゅう時に 逃げやすい。 あと りんちゃん 幸ちゃん トメちゃん。」

3人「はい。 あんたらは 週3回 家主さんの畑仕事 手伝い。 そのかわり 食べ物 分けてもらうちゅうて 話つけてきたさかい。」

千代「その家は どこにあんのん?」

糸子「山中町の山奥や。 B29かて あんなとこ 爆弾 落とさへん。」

ハル「うちは 嫌や。」

糸子「はあ?」

ハル「うちは この家で死ぬ。」

静子「ばあちゃん そんなん 言わんと。」

ハル「行きたかったら 勝手に行ったらええがな。 何があったって うちは この家で死ぬ。」

(舌打ち)

<年寄りの寝言なんぞ 聞いてられません>

玄関前

ハル「放せ 放せちゅうてんのに! もう 糸子 何すんねん! うちは 行かへんちゅうてるやろ!」

糸子「トメちゃん はよ出し!」

トメ「え けど?」

糸子「はよ はよ走り!」

ハル「こら! この不幸もん! 覚えとれよ!」

糸子「はいはい 何とでも言うてくれ!」

ハル「アホ!」

台所

<食べ物。 食べ物。 あとは とにかく食べ物です>

糸子「足らん。」

山中町

(水遊びの声)

(鶏の鳴き声)

「ほお~ こら助かるで!」

糸子「洋裁屋やさかい こんなもんしか ないんですけど。」

「いや~ 今こんなん どっこも 売ってないさかいな。」

糸子「うちは 糸のもんだけは どないかなりますよって また言うて下さい。」

「いや おおきに!」

糸子「ほんで あの ご主人。」

「ん?」

糸子「モノは相談ですけど。 うっとこは とにかく 大所帯やよって 食べ物がようさん いるんですわ。」

「はあ。」

糸子「りんちゃん トメちゃん 幸ちゃん!」

3人「はい!」

糸子「これらが お手伝いしますよって 早速 畑のもん ちょこっと 分けてもらえませんやろか? 頼んます!」

一同「頼んます!」

「うう~ん。」

小原家

台所

<よっしゃ! よっしゃ よっしゃ!>

糸子「ああ。 こんで しばらくは どないかなる。」

オハラ洋装店

(ミシンの音)

(警戒警報)

糸子「警報や!」

<警戒警報は 日増しに増えてきました>

糸子「急ぎ! はよ! はよ!」

(警戒警報)

<6月に入ってからは 朝 昼 晩 ひっきりなしに鳴って>

2階 寝室

(警戒警報)

<夜は ロクに寝られんと。 そやからちゅうて 昼も 休んでる訳にいかん。 ゆうてるうちに 梅雨に入ってしもて>

山中町

(雨の音)

(水滴の音)

千代「あれ まあ。」

優子「お母ちゃん!」

千代「ぬれてしもて。 まあ~!」

糸子「ぬれるで。」

千代「ご苦労やったなあ。」

糸子「お母ちゃん 米 米 乾かして! ぬれてしもたかもしれん。」

千代「はいはい。 ぬれてしもたなあ。」

糸子「お母ちゃん。」

千代「はあ?」

糸子「その手 どないした?」

千代「はあ これか? ムカデに 刺されてしもたんや。」

糸子「ムカデ? うわ~ やっぱし 出てきてもうたか。」

直子「直ちゃんも ムカデ 見たで。 こんくらいのん。」

糸子「ああ あんたら ムカデ 絶対 触ったら あかんで!」

2人「うん。」

ハル「糸子!」

糸子「ん?」

ハル「早う 家 帰してくれなんだら うちら ムカデに殺されてまうで。」

糸子「はいはい。 戦争 終わったら すぐ帰しちゃるよって。」

ハル「戦争なんか終わるの 待っちゃあったら うちらの方が 先 死んでまうわ。」

千代「なあ もうちょっとしたら そこの川に ようさん 蛍が出るんやて。 昨日もなあ 日暮れに優ちゃんらと 見に行ってみたんやけど まだ出てへんかった。」

糸子「はあ。」

千代「楽しみやなあ。」

道中

(かえるの鳴き声)

(足音)

住民「こら 泥棒! 待てえ! あ 泥棒 見んかったか?」

「あっちや。」

住民「畜生 ほんまにもう!」

「おい 行ったど。」

(かえるの鳴き声)

「何じゃ お前。 ごっつい別嬪やの。 腹 減ってんけ? 食わしちゃら。 来いや。」

<モノが考えられへんように なってました>

小原家

玄関前

<梅雨が明けたら 夏が来て あっついお日さんの下を 毎日 アメリカの飛行機が 飛んでいきます>

(警戒警報)

山中町

<警報は このごろ 朝から ひっきりなしで なけなしの食べ物を あっちへ運び こっちへ運び>

千代「おおきにな。」

糸子「あ~。」

千代「あ~ 糸子! 大丈夫か?」

<食べてへんし 寝てへんし>

糸子「大丈夫や。」

(せみの鳴き声)

小原家

居間

<何やもう モノが考えられへん ようになってました>

(せみの鳴き声)

糸子「結局 蛍て 見れたんやろか…。」

『ごめんください。』

糸子「はい。」

「小原 勝さんのお宅でしょうか。」

糸子「はい。」

(せみの鳴き声)

玄関

「公報が届いてます。」

(せみの鳴き声)

「ご愁傷さまです。」

糸子「ご苦労さんです…。」

(せみの鳴き声)

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