ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第89回「揺れる心」【第16週】

あらすじ

北村(ほっしゃん。)の工場での初日、監督として現れたのは、周防(綾野剛)だった。うろたえていた糸子(尾野真千子)だったが、2年前の水玉ワンピースを作れという北村の言葉に、婦人服の流行を知らないのかと声を荒げる。驚いた北村は逃げ出し、糸子は周防に流行の「ディオール」の服を説明することに。家に戻った糸子は、工場の監督について昌子(玄覺悠子)に尋ねられ思わず言いよどむ。後ろめたい思いにがく然とする糸子。

89ネタバレ

小原家

居間

<今日から いよいよ 北村さんの工場で 婦人服の指導を始めます>

糸子「せやけど その工場の監督 ちゅうんが どんな奴やろなあ。」

昌子「ああ そこは 肝心ですねえ。」

糸子「うん…。 腕だけやのうて 勘も大事やさかいな。 こっちの言う事 スパ~ンと 分かって くれる人やったら ええけど なんぼ説明したかて 分からん おっさん なんかやったら 難儀やでえ~。」

心斎橋 北村の工場

糸子「おはようございます…。 おはようございます。 はあれ… こら ほんまに えもんやな。 へえ~。 ヘヘヘッ ふ~ん。 うん? 止まってんで…。 こうゆうとこをな きちっと しとかなあかんねん。 きちっと。」

(ドアの開く音)

周防「おはようございます。」

糸子「あ おはようございます。」

(ねじを巻く音)

(巻き過ぎて壊れた音)

糸子「あ~ ああ! あ~! ああ…。」

北村「監督や。 周防龍一ゆうて もともと テーラーの職人…。」

糸子「知ってます。」

北村「何で 知ってんよ?」

糸子「月会合かて 出てたやないですか? あと 前に うちの店 手伝うてもうた事も あるよって。」

北村「ほんまけ? お前 何で 言えへんのよ?」

周防「はあ まあ…。」

糸子「けど まあ 随分 前の話ですさかい。」

北村「はあ~ まあまあ ええわ。 ほな 早速やけど 売りもんの 服の話 始めて ええけ?」

糸子「はあ どうぞ。」

北村「単刀直入に言うぞ。 あんたが流行らせた服 あるやろ?」

糸子「はあ?」

北村「水玉のやつや!」

糸子「ああ~。」

北村「あれ 作ってくれ。

(大きな ため息)

糸子「お宅 婦人服 なめてますんか?」

北村「はあ?!」

糸子「あんなあ あの水玉で ええんやったら なんぼでも教えますわ。 けど よ~う考えて下さい。 ほんまに あれで ええんか。」

北村「あ… あかんのけ?」

(舌打ち)

(ため息)

北村「おい! えっ…。」

糸子「一から 勉強してもらいましょか。」

糸子「ほんで この流れが 戦争に入ったら こうなる。 紳士もんに 近づくんです。 肩パットが入って 全体的に しっかりしてくる。 この戦争前の 女らしい 柔らかい感じと 全然 変わってますやろ? そっからあとの何年かは 知ってのとおり 戦争で 洋服どころやない。 モンペばっかしです。 戦争が やっと終わって 最初に出てきたんが これ。」

北村「パンパンや。」

糸子「そうです。 この子らが 一番最初に おしゃれを始めたんです。 それが ごっつい格好よかった。 最初は 女の人らも 白い目で見てたんが どんどん まねるようになりました。 ほんで その ちょっとあとに うちが作ったんが… これっちゅう事です! 昭和21年の春から夏に 確かに ごっつい流行りました。 けど もう それも 2年も前の話です。」

北村「いや せやけど 2年前ぐらい… あかんのけ?」

糸子「残念ながら もう 犬でも食いません。」

北村「ほうけ…。」

糸子「よろしいか 北村さん。 婦人服にはな 流行っちゅう 厳しい厳しい 自然のおきて ちゅうもんが ありますんや。 お宅も 婦人服 始めるんやったら その おきての前に 土下座するつもりで やらんと あきませんで!」

北村「わ… 分かった! 分かった! 近い!」

糸子「はあ?」

北村「分かった。 わいも もう余計な事 言えへん。 あと あんじょう やってくれ。」

糸子「はあ?」

北村「あと あんじょう やってって。」

糸子「いや 肝心の話 こっからです!」

北村「わい 肝心の話 あかん。 あ~ あいつ あいつ…。 肝心の話 ものごっつう 好きやから。」

糸子「いやいやいや。」

北村「頼んだで!」

糸子「いや ちょっと待って下さい。」

北村「もうええ 頼んだ!」

糸子「いや ちょっと待って下さい。」

北村「もう ええって!」

糸子「待ってよ! あ! え~っ…。」

周防「あの~。」

糸子「はい。」

周防「そいで こいからは どげんなっとですか?」

糸子「あ… えっと…。 それは… え~っと…。 あ いや とにかく 今は このディオールです!」

周防「はあ ディオール。」

糸子「パリのデザイナーなんやけど この人が 発表してくる服に 世界中が 注目してるんです。 けど まあ まだ どっこも 生地不足で なかなか 作れてはないんやけど 世界中の女が着たがってるんです。」

周防「そいやったら…。」

糸子「は?」

周防「こいから うちん工場の作るもんも こいにか型にした方が よかって事ですか?」

糸子「はあ… そうです。 そない思います。」

周防「ふ~ん。」

糸子「けど 全く同じもんは 無理です。 見て下さい。 この ほら この生地の量。」

周防「あ~ こいやったら いっぱい いるたいねえ。」

糸子「値段 下げて 売ろう思たら そら ここまで 生地は ようさん使えません。 けど 長さやら 雰囲気は なるべく近いもんにした方が ええと思うんです。」

周防「そげんですね。」

糸子「あ 描いてみましょか?」

周防「あ はい。 お願いします。」

小原家

居間

昌子「先生 どないやったんですか? 昨日。」

糸子「うん?」

昌子「工場の監督ですよ。 よさそうな人でした?」

糸子「う~ん… アハハ…。 うん まあまあやな。」

昌子「ふ~ん。」

糸子「勘がええしな 話も通じやすいし まあ 苦労は せえへんと思うわ。」

昌子「よかったですねえ。」

千代「昌ちゃん お代わり いるか?」

昌子「はあ お願いします。」

糸子「あの あれやで 周防さんちゅうな… あの…。」

2人「周防さん?!」

糸子「あ… 覚えてるか? だいぶ前に ちょろっと 店 手伝うてもうた事 あるやろ。」

昌子「当ったり前やないですか! 周防さん?!」

千代「へえ~。 いや~ 会いたいなあ。」

昌子「会いたいですねえ。」

千代「なあ。」

昌子「うちも 会いたいわ。」

千代「そら よかったなあ。」

糸子「うん。」

井戸

<うち さっき… 周防さんに会うた事 みんなに隠そうとした 何でや? 後ろめたかったからや>

糸子「何がや? 何も 後ろめたい事なんか…。」

<いや ある。 ごっつう 後ろめたい事が 心の奥の方に… あ~ 何 考えてんや! あかん あかん あかん あかん!>

糸子「うん! 仕事や… 仕事!」

心斎橋 北村の工場

(頬をたたく音)

糸子「おはようございます。」

周防「おはようございます。」

糸子「あれですねえ もう 随分 朝も あったか なりましたねえ。」

周防「顔…。」

糸子「え?」

周防「ここんにき 何か 赤うなっとですよ。」

糸子「ほうですか?」

周防「誰かに たたかれたと?」

糸子「いやいやいや… 大丈夫です。」

周防「そうね。」

<ああ やりにくい>

糸子「ここを ちょっと空けてあげると 女性もんですよね。」

<いや ほんでも この人 仕事は やりやすい>

糸子「ここ 合わせて ピンで留めます。」

周防「はい。 はい。」

糸子「おおきに。」

<やっぱし やりにくい>

♬~(三味線)

糸子「どうぞ。」

周防「あ ありがとうございます。」

糸子「せやけど 周防さん。」

周防「何ね?」

糸子「何で 工場の監督なんか 引き受けたんですか?」

周防「う~ん。 おいも テーラーの仕事は 好いとうばってん。」

糸子「今は テーラーの仕事かて なんぼでも あるでしょう? 男の人が 背広を ごっつい 着だしてるやないですか?」

周防「ばってん そんおかげで とにかく 数ばっかい いっぱい作らされるっけん。 テーラーも 工場んごと なっとっとです。 そいやったら こっちん工場でも よかかって 思うたとです。 北村さん 給料ば 結構 くれるって言うたけん。 そいに 婦人服の勉強 できるっていうとも おもしろかごたって 思うたけんね。」

糸子「へえ~婦人服にも 興味がありますか?」

周防「そいと 小原さんが指導に来るって 聞いたけん。」

♬~(三味線)

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