あらすじ
糸子(尾野真千子)は、隣町に周防(綾野剛)の紳士服の店を開くことにする。率先して店のしつらえに取り組む糸子。一方オハラ洋装店は、繁盛するものの、ぎくしゃくとしている。そして周防も自分の家族を気にしているのだった。親族会議では妹たちを従えて糸子をかばった長女・優子(野田琴乃)だが、周防の子どもたちになじられ、つらい思いをする。そして紳士服の店が完成した日、糸子は周防が心から喜んでいないことを知る。
97回ネタバレ
小原家
2階 座敷
優子 直子 聡子♬『もういくつねると お正月』
<周防さんには うちの店で 紳士服の仕事を 続けてもろちゃったんやけど… まあ いろいろ 思うところも あって 隣町に 紳士物専門の 別の店を 構えることにしました>
テーラー周防
「あちこち 天井が腐ってたで。」
糸子「え~? ほな しっかり直しといて下さい。 テーラーやよって 生地 ようさん置くんですわ。」
小原家
オハラ洋装店
糸子「ただいま。」
昌子「お帰りなさい。」
(ミシンの音)
糸子「だんご 買うてきたよって。」
(ミシンの音)
2階 仕事場
糸子「大工さんにはな『きっちり 直しといてな』ちゅうといたけど 万が一 雨漏りでもしたら すぐ言うてな。 生地 ぬれたら 大ごとやさかい。」
周防「うん。」
糸子「ご近所さんにも 一とおり 挨拶しといた。 ええ人らやったで。『この町にも テーラーなんかが でける ようになったんか』ちゅうて 喜んでくれたしな。 食べへんの? だんご。」
周防「うんにゃ あとで。」
糸子「食べて。 あの…。 おうちの分は 別に買うといたさかい。」
<周防さんが おやつを こっそり 子どもらに 持って帰ってるんを 知ってました だんごなんか もう 今のうちは 100個でも200個でも 買えます 店は 繁盛してました>
オハラ洋装店
糸子「世界中で 流行ってんやで。」
客達「世界で?!」
居間
松田「今月の売り上げに参りますな。 婦人もんが 7万2,130円。」
オハラ洋装店
糸子「『命短し 恋せよ乙女』ちゅうこっちゃ。」
「乙女! アハハハハ… 乙女やて!」
糸子「そうやでえ。」
居間
松田「ほんで 今月の利益は 締めて… 2万8,250円です。」
安岡家
安岡美容室
糸子「まあ うちも 稼ぐだけは きっちり稼いでるよって 恵さんも 昌ちゃんらも うちのやる事に 何も口出せんようになったわ。」
八重子「ほうけ…。 開店は いつなん?」
糸子「年明け。 派手にやるさかい また のぞいて。」
八重子「せやけど うちとこは ほら… 背広着るような男 いてへんしな。」
糸子「ああ…。」
小原家
勝手口
優子「行ってきます。」
千代「行っちょいで~。 気ぃ付けてな。」
優子「うん。 ちょっと。 ちょっと 待ち! 何してんの? あんたら。」
「そっちこそ 何ば しよっとや?! おいん父ちゃんば 返せ! 返せ! 父ちゃんば 返せ! 返せ!」
糸子「はれ 優子。 お習字か?」
優子「うん。」
糸子「気ぃ付けて 行っちょいで。」
優子「うん。」
糸子『ただいま。』
千代『お帰り。』
オハラ洋装店
昌子「あ~ 来年も よろしゅう頼んます。」
「よろしゅうお願いします。」
「お願いします!」
テーラー周防
周防「う~ん…。 立派な店に出来たね。」
糸子「うん。 この机一つかて 張り込んだよって。 値ぇは張っても ええもんは 古なっても ええやろ? あれ 不思議やなあ。 時計かて 電気式やで。 ねじ式のやつは うっかり巻き過ぎたら 壊れてまうよってな。 あ そんで いつぞや 周防さんに 直してもうた事 あったな。 フフフッ あれも 恥ずかしかったなあ。 何で? うち… 何を間違えたん?」
周防「何も間違っとらんよ。」
糸子「周防さん…。 ほんまは… 自分の店なんか 持ちたなかったん?」
周防「うんにゃ…。 夢やったばい。 長崎に おった時から ずっと。」
<うちは 初めて 自分の看板を見上げた時 ごっつい うれしかった。 ごっつい ごっつい うれしかった 何が ちゃうんやろな?>
糸子「ごめんな 周防さん。」
周防「うん? うち 周防さんの夢 かなえたんやのうて 取ってしもたんやな。 そら 自分やのうて 女の金で 看板 あげてもうたかて 何も うれしないわな? 何や はよ言うてよ 周防さん。」
周防「い~や… でも ありがとう 糸子さん。」
糸子「うちは…。 周防さんを… ほんまに幸せには でけへんのやな。」
周防「おいも…。 おいも そうたい。」
周防「フフフフッ 長崎弁は 分かりにくかですか?」
糸子「う~ん…。」
周防「まだ?」
糸子「初めの頃は 難しかったけどな。」
周防「そうね。」
糸子「今は ちょっと分かんで。」
<その夜 うちは 生まれて初めて 無断外泊ちゅうのを しました>
(小鳥の鳴き声)
糸子「ほな 月々2,000円の返済 ちゅう事で。」
周防「はい。」
糸子「まあ 集金やら 事務の事には 恵さんを よこしますよって。」
周防「分かりました。」
<朝方 店を 周防さんに 月賦で売りつけて>
糸子「おおきに。」
周防「こっちこそ。」
糸子「さようなら。 お元気で。」
周防「さようなら。 お元気で。」
小原家
台所
千代「糸子!」
糸子「すんません。」
千代「どういうこっちゃ? 朝帰りて。」
糸子「堪忍。 ほんま堪忍。」
千代「糸子。 あ 糸子!」
2階 寝室
<うちは また 前に進みます>