中庭
安子「勇ちゃん。」
勇「こねん形で わしの野球人生が終わるたあのう。」
安子「ごめんね。 何も力になれんで。」
勇「おめえが謝ることじゃあねえ。 全部… 戦争のせいじゃ。」
両親の部屋
(ノック)
安子「失礼します。」
(襖が開く音)
安子「お義母様 お加減はいかがですか? お洗濯したもの タンスにしもうておきますね。」
美都里「あんたのせいじゃ…。 安子さんに出会うてから 稔は変わってしもうた。 いけん言うのに聞かんと 無理やり一緒になって あげく 私を置いて 遠い海で死ぬじゃなんて…。 あんたが稔をそそのかして 稔の人生を狂わせたんじゃ。 あんたが殺したようなもんじゃ!」
安子「あんまりです。 そねん言いぐさは ねえ思います。」
美都里「あら 私に刃向かうんかな。 稔がおらんようになった思うたら 本性出すんじゃねえ。」
安子「お義母様。」
美都里「あんたに お義母様なんて言われる筋合いはねえわ! あんたは疫病神じゃ。 とっとと この家から出ていかれえ!」
安子「いいえ。 私は稔さんの妻で るいの母親です。 どこへも行きません。」
リビング
安子「るい。 起きとったん?」
勇「どねんしたんなら?」
安子「勇ちゃん。 何も。」
勇「そうか…。 あっ いや 物置に入れとこう思うて。」
安子「そう。」
勇「るいが大きゅうなったら 使わせりゃあええ。」
安子「えっ?」
勇「るいは 名前からして 野球の申し子じゃからのう。」
安子「るいは おなごの子じゃ。」
勇「じゃあから 何なら。」
安子「それに 『るい』いう名前は そねんことじゃ…。」
勇「あっ!」
安子「えっ?」
勇「るいが立っとる。」
安子「えっ! 本当じゃ! るい! るい! すごいなあ! るい!」
勇「あっと笑うたのう。 よかった。」
安子「るい。 るい。 すごいなあ。」