両親の部屋
千吉「ただいま。 どねんしたんなら。」
美都里「あなた。 安子さんを この家から追い出してください。」
千吉「何ゅう言いだすんじゃ そねんこたあできん。」
美都里「そねんして甘やかすから つけあがるんじゃ。」
千吉「るいを母親から引き離すわけにゃあ いかんじゃろう。」
美都里「るいは 私らの養女にしたらええ。」
千吉「何ゅう言よんなら。」
美都里「今 玄関から音がしたねえ?」
千吉「えっ?」
美都里「稔じゃ。 稔が帰ってきたんじゃ。」
玄関
美都里「稔。 稔! 稔!」
千吉「ああ…。」
美都里「稔!」
中庭
美都里「稔…! 稔… 稔! 稔 どこでえ。」
千吉「やめとけえ。」
美都里「稔…!」
千吉「稔は帰ってこんのんじゃ。」
美都里「稔! 稔! 稔…。」
千吉「稔は死んだんじゃ!」
美都里「み…。 ああ…。 (泣き声)」
居間
安子「♬『Grab your coat, grab your hat baby Leave your worries』」
千吉「安子さん。」
安子「はい。」
千吉「ちょっと話があるんじゃ。」
ダイニング
安子「お義父様 何でしょうか?」
千吉「安子さん。 今すぐにたあ言わん。 喪が明けて 心の整理がついたら 再婚せられえ。 無論 わしがええ人を紹介…。」
安子「お断りします。 私は 稔さんの… 稔さんだけおの妻です。 今までも これからも。」
千吉「そねん言うこたあ分かっとった。 しゃあけど 再婚するんが 一番ええんじゃ。」
安子「お義母様のお考えですか?」
千吉「違う。 わしの考えじゃ。 美都里は今 正気じゃねえ。 腹ぁ痛めて産んだ子に先立たれたんじゃ。 無理もねえ。 わしゃあ これから 仕事にかかりっきりになる。 家のことにまで目が届かん。 事業が どうなっていくかも分からん。 正気を失うた美都里と 暮らしょおっても 安子さんが苦しむだけじゃ。」
安子「るいは…。 るいは どねんなるんですか?」
千吉「るいは 雉真の子じゃ。 うちで育てることになる。 安子さんだって 子連れじゃあ 縁談の邪魔になるじゃろう。」
安子「嫌です。 るいは 私が育てます。」
千吉「安子さん…。」
安子「私から るいを奪わんでください。 お願いします。 どねんなことでも我慢します。 しゃあから このまま このうちに 置いてください。 お願いします。」
千吉「ここに縛りつけておくよりも 新しい人生を生きてほしい。 きっと稔も そう 望んどるじゃろう。」