あらすじ
映画のオーディション終了後、ひなた(川栄李奈)はモモケン(尾上菊之助)から話がしたいと呼び止められます。かつて父親との関係にわだかまりを抱えていたモモケンは、映画村のサイン会でひなたから「大月」の回転焼きをもらったことで、運命が大きく変わったのだと語ります。まさかの事実に、ひなたは驚きつつも誇らしく思うのでした。そしてついに「妖術七変化!隠れ里の決闘」のオーディション結果が発表されて…。
84話ネタバレ
俳優会館
道場
剣之介「待ってください。 あなたと話がしたかったんです。」
剣之介「私が 二代目健之助を襲名したのは 父が亡くなった翌年… 昭和40年4月4日のことです。」
ひなた「えっ…。」
剣之介「程なくして 私は テレビ版の 『黍之丞』シリーズを始めました。 テレビ向けに分かりやすくした『黍之丞』は おかげさまで人気シリーズとなりました。 しかし… 私は ずっと迷っていました。 父が育て上げた黍之丞を 汚しているだけなのかもしれないと。 そんな時です。」
回想
ひなた「うちのお店の回転焼きです! どうぞ!」
剣之介「ありがとう。 頂きますよ。」
ひなた「私… 侍になりたいです!」
剣之介「志を失わなければ きっとなれますよ。」
回想終了
剣之介「まさか自分の口から その言葉が出ようとは…。 何だか気になって あのあと すぐに回転焼きを頂きました。 『大月』と焼き印が押されているとおり まあるいお月さんのような回転焼きに かぶりつきました。 すると… 甘~いあんこの味が口の中に広がって…。 いつか サンタさんの言っていた言葉が 耳によみがえりました。」
回想
サンタ「おいしいあんこのおまじないじゃ。」
回想終了
ひなた「あんこのおまじない?」
回想
サンタ「まじいのう~! 何なら このあんこ。 『小豆の声を聴けえ。 時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を 思い浮かべえ』。 『おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 その気持ちが 小豆に乗り移る。 うんと おいしゅうなってくれる』。 『甘えあんこが出来上がる」。 はあ~ えれえもんじゃ 覚えとった。』
団五郎「何ですか? それ。」
サンタ「え~? おいしいあんこのおまじないじゃ。」
回想終了
ひなた「それを思い出したんですか? うちの回転焼きを食べた時に。」
剣之介「ええ。 『小豆の声を聴け。 時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の幸せそうな顔を 思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ』。 父は決して 自分を見放したわけじゃない。 ずっと見守ってくれてたんだ。 そう 腑に落ちました。 そして そのあと…。」
回想
ひなた「モ… モモケ~ン!」
錠一郎「僕ら 先代からのモモケンファンでして。」
回想終了
剣之介「きっと草場の陰で 父は言っていたんです。 『いつか この映画を撮れ。 お前の左近を見つけろ』と。」
ひなた「あ… そうやったんですね。」
剣之介「志を失わなければ きっとなれる。 侍にだって 何だって。 それは 父の口癖だったんですよ。 ありがとう。 ひなたちゃん。 あの時 あの回転焼きをプレゼントしてくれて。」
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「なあ お母ちゃん 知ってた?」
るい「何を?」
ひなた「モモケンさんが二代目襲名したん 昭和40年4月4日やねんて。」
るい「へえ~! ひなたのお誕生日やね。」
ひなた「うん。」
<知らない間に 『大月』回転焼きが 大好きな時代劇スターたちの運命を 動かしていたなんて。 ひなたは とても誇らしく思いました>
商店街
森岡「お~ ひなたちゃん。 お帰り。」
ひなた「ただいま。」
サンタ「あんたが作ったん? これ。」
ひなた「あれ? サンタのおっちゃん?」
サンタ「お~ ひなたちゃんじゃ。 あんた ここら辺の子ぉじゃったかな。」
ひなた「はい。」
サンタ「ふ~ん。 こねえだのオーディション どうじゃった?」
ひなた「あ~ まだ選考中みたいです。」
サンタ「五十嵐っちゅう にいちゃん 選ばれたらええのう。」
ひなた「えっ?」
サンタ「ひなたちゃんのええ人なんじゃろ?」
ひなた「あ… いや いや いや…! そんなんやありません。」
サンタ「おっちゃんな もう そねえなんだけ鋭んじゃ。 あのにいちゃんの時だけ ひなたちゃんの目つきが変わりょうった。」
ひなた「え…。 あっ あの サンタさん。 今日は 何で ここに?」
サンタ「それな。 あの~ 『大月』っちゅう回転焼き屋 知らんかな?」
ひなた「えっ?」
サンタ「うん?」
ひなた「えっ それやったら うちですけど…。」
サンタ「お~ そうか。」
ひなた「何でですか?」
サンタ「いやな ダンゴちゃんが お気に入りの店じゃいうて… まあ いっぺん 食うてみゅう思ったんじゃ。」
ひなた「そやったんですね。 うれしいなあ。 こっちです。」
サンタ「おっ。」
ひなた「おじちゃん ただいま。」
吉右衛門「お帰り。」
サンタ「舌の肥えたダンゴちゃんじゃ。 間違えねえじゃろう。」
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「うちのあんこは 絶品ですよ。 うん?」
サンタ「ひなたちゃん見てると 妹を思い出すんじゃ。」
ひなた「おっちゃんの妹? おばあちゃんやん。」
サンタ「そら 今は おばあちゃんじゃ。 長えこと会うてねえからのう。」
ひなた「ふ~ん。」
サンタ「何じゃあ ここか。」
ひなた「うん そう。 お母ちゃん ただいま。」
るい「お帰り。」
錠一郎「るい?」
るい「うん?」
錠一郎「るい。 あ… るい。 あの… シャツ どこやった?」
るい「あのシャツて?」
錠一郎「あの~ ほら こないだ おしょうゆ こぼしたやつ。」
ひなた「もう お父ちゃんのシャツは 皆 そうやんか。」
錠一郎「ああ ひなた お帰り。」
ひなた「ただいま。」
サンタ「るい…。」
回想
算太「お名前は?」
ひなた「るいです。」
算太「『るいです』 そっか~。 かうぇえらしいのう。」
回想終了
ひなた「お母ちゃん。 このおっちゃんに回転焼き焼いたげて。」
るい「えっ? どのおっちゃん?」
ひなた「そやから このおっちゃん…。 あれ?」
<それきり サンタは ひなたの前に姿を現しませんでした>
居間
錠一郎「お~。」
桃太郎「大丈夫や。 PLやったら返せる! なあ お父ちゃん。」
錠一郎「おう。 桃太郎。」
回転焼き屋・大月
るい「お待たせしました。 どうぞ。」
テレビ『今日は 延長に及ぶ熱戦。 10回の裏 8対4。 取手二高リード。 追い込まれたPL学園 ツーアウト』。 『三線!』。
2人「あ~!」
桃太郎「清原~!」
テレビ『取手二高 初優勝!』。
桃太郎「負けた…。」
小夜子「残念やったね 桃ちゃん。」
桃太郎「小夜ちゃん。」
小夜子「でも 清原君て まだ2年でしょ?」
桃太郎「うん うん。」
小夜子「まだ来年があるやん。」
錠一郎「小夜ちゃん。 いらっしゃい。」
小夜子「おじさん。 こんにちは。」
ひなた「小夜ちゃん? 久しぶり。」
小夜子「あっ ひなちゃん。 いてた。」
ひなた「今日は休みなん。 小夜ちゃんは?」
小夜子「私は 夏休み。」
ひなた「あっ そうか。 ええなあ 学生は夏休みがあって。」
小夜子「アハハッ。」
テレビ『続いてのニュースです。 桃山剣之介の主演映画 『妖術七変化! 隠れ里の決闘』 主人公 棗 黍之丞の敵役となる俳優が 今日 発表されました』。
錠一郎「ひなた。 これ 五十嵐君 受けたやつか?」
ひなた「そう そう そう そう!」
るい「何? ひなた。 あんた 結果知らされてへんの?」
ひなた「こんな極秘情報 私んとこまで来いひんて。」
テレビ『1,500名の候補者の中から 選ばれたのは…』。
俳優会館
中庭
ひなた「おなか壊すで。」
五十嵐「いいよ 別に!」
ひなた「そないに やけにならんでも。」
五十嵐「お前にはな 俺が あのオーディションに どれだけ懸けてたか 分かってないんだよ。」
ひなた「あんた まだ養成所出たばっかりの新人やろ?」
五十嵐「あの受かったやつだって まだまだ無名だろ ばか!」
轟「ばかは お前や。」
五十嵐「監督!」
轟「お前なんか ホンマやったら 書類で落ちてるわ。」
五十嵐「えっ…。」
轟「最終選考は悪なかったけどな。 まあ それは 虚無さんに引っ張られて 実力以上が出せただけや。 ほれ。 マルつけたある役 お前で どやて モモケンさんが言うたはる。」
五十嵐「えっ。」
轟「わしも異論あらへんし。」
五十嵐「あ… ありがとうございます!」
轟「頼むで。」
五十嵐「えっ えっ。 えっ! ん! ん ん ん! 伊織…。 役名がある!」
ひなた「えっ ちょっと… どんな役!?」
五十嵐「やめろ やめろ やめろ! 破れたら どうする!」
ひなた「あっ ごめん。 よかったなあ 五十嵐。 おめでとう。」
五十嵐「ありがとう。」
ひなた「手伝おか? 読み合わせとか。」
五十嵐「ハハッ いいよ。」
ひなた「何でえな。 私 うまいんやで。」
五十嵐「うそつけ。」
ひなた「ホンマやて。 仕事終わったら道場行くわ。」
五十嵐「来るなって。」
ひなた「いや 行く。」
榊原「あっ いたいた。 大月さん ちょっと。」
ひなた「はい また。」
五十嵐「おう。」
休憩所
榊原「はい。」
ひなた「『京都茶道家殺人事件』。」
一恵「聞き捨てならへんなあ。」
榊原「新しいステージの企画や。」
2人「へえ~。」
榊原「それで… 野田さんに 茶道家役の女優さんに 茶道指導をしてもらいんやけど。」
一恵「えっ?」
ひなた「えっ そんなつながり 映画村やったら なんぼでも あるんと違うんですか?」
榊原「ああ… そら あるけど…。 その女優さんは勘弁してくれって みんなに言われてしもて…。」
ひなた「その女優さんって もしかして…。」
榊原「すみれさんや。」
回想
すみれ「珠は生涯 そなた一人の…。」
回想終了
ひなた「またですか? 懲りませんねえ。」
榊原「僕は ここが すみれさんの正念場やと 思うんや。 そやから 野田さん。 協力してくれへんかな?」
一恵「ええんやろか? 教えたことないんやけど…。」
ひなた「あっ おばちゃんと一緒にやったら?」
一恵「えっ?」
ひなた「おばちゃん 好きそうやん そんなん。」
一恵「ほな ひなちゃんも来てくれる?」
ひなた「えっ? あっ いや 私は…。」
榊原「もちろんや! 大月さんには すみれさんのサポートをしてほしいねん。」
ひなた「え~!」
榊原「頼むわ。 何やかんやいうて すみれさん 大月さんのこと気に入ってるんや。」
一恵「じゃあ 今日帰ったら お母さんに言うてみます。」
榊原「ありがとう。 大月さんも一緒に行ってきて。」
ひなた「はい…。」
<ひなたは にわかに忙しくなりました。 Hinata suddenly became busy>