回想
1984年(昭和59年)
春子「もう どいてよ! 邪魔!」
大吉「春ちゃん 東京さ行ぐのが? どうしても行ぐのが?」
春子「こんなド田舎には、いたくない」
大吉「母ちゃんの後継いで 海女になんのが そんなに嫌が?」
回想終了
大吉「あれから 24年 絶縁状態だもんな…。」
春子「お父ちゃん死んだのも 知らされてなかったし。」
2人「えっ?」
(話し声)
アキ「ただいま~!」
春子「アキ どこ行ってたの?」
アキ「海!」
春子「海って?」
アキ「海 見に行けって言ったじゃん。」
春子「そうだけど…。」
アキ「あ~ 疲れた~!」
かつ枝「大したもんだど この わらしな! 一人で ウニ 8つも かっ食らって!」
(笑い声)
美寿々「さすが 夏ばっぱの孫だ!」
(笑い声)
弥生「どれ… 保育園さ 孫ば迎えに行かねばの。」
美寿々「おらも パートさ行かねばな! 今 何時だ?」
安部「おらも そろそろ…。」
大吉「安部ちゃん!」
安部「夏ばっぱ 明日の海開き よろしくね!」
夏「はいはい! お疲れさん。」
アキ「どうしたの?」
大吉「あっ アハハハハッ…。 言葉が見つからねえんだ 2人とも。 無理もねえ 24年ぶりの再会で!」
夏「鍋 火さ かけたまんまだった。」
春子「止めときました。」
夏「はっ…。」
アキ「超すげえの! おばあちゃん ザバ~ッて潜って 見えなくなったと思ったら ウニ いっぱい抱えて ザバ~ッて上がってくるの!」
春子「引退なさるそうで。 海女クラブの会長さん 長い間 御苦労さまでした。」
アキ「えっ そうなの?」
大吉「夏さん おらが 春ちゃん 呼んだんだ! 余計な お世話だとは 思ったけどね! まあ お互い 子どもじゃ あるめえし! 母一人 子一人なんだべ!? 昔の事は 水に流して…。」
夏「…3,000円。」
春子「えっ?」
夏「ウニ 1個500円。 8個で 4,000円。 家族割引で 3,000円。 この わらしの母親だべ。 早く払って下さい。」
アキ「おばあちゃん…。」
大吉「アッハッハッハッ! そりゃあ ねえべ 夏さん! 娘に向かって…。 心配して 飛んできたんだ。 東京から! なあ 春ちゃん!」
夏「それにしちゃあ 荷物が やたら 大ぎが。 悪いが おら まだまだ引退など しねえど。」
大吉「いやいや いやいや 言ったべ 夏さん『もう限界だ』って!」
夏「来年も再来年も潜る。 自分が食う分は 自分が稼ぐさ。 あんだの世話には なりません!」
春子「はあ…。 バッカバカしい! 勝手にして! アキ 帰るよ。」
アキ「…。」
春子「何してんの アキ! こんなとこに いたって しょうがないんだから! アキ! 東京 帰るよ!」
夏「頂きま~す!」
アキ「やだ…。 帰りたくない。」
春子「アキ…。」
<母親が怖くて 動けなかったのではありません。 アキは動かなかったのです。 自分の意志で>