天野家
大吉「そうなると 来年から 最年少の安部ちゃんが 一人で潜る事になる。」
春子「…で? 何か問題でも?」
大吉「んだ! 大問題だべ! 最年少ったって 42だど!?」
安部「刻な後継者不足なんです!」
春子「その後継者問題と私と 何の関係が…。 …ってか 何してんの!? それ!」
大吉「春ちゃん 海女さんになってけろ!」
春子「はっ!?」
大吉「来年から 夏さんの代わりに 潜ってけろ!」
春子「大吉さん それ 本気で言ってんの?!」
大吉「何なら 今年からでも なっ?」
安部「んだんだ! ちょうど明日 海開きだし!」
春子「いやいや 無理無理! だって 私だって 42だもん! 同級生じゃん。」
安部「同級生っていっても 春子さんは学園のマドンナで 私なんか 机の中に入れたまんま 忘れられて干からびた コッペパンに生えた カビですもの。」
春子「カビって… どこまで卑屈なの。」
大吉「頼む! 北の海女は 町の大事な観光資源なんだ!」
<はい。 北の海女という言葉が 出たところで 海女について 解説しましょう。 北三陸地方の男性の多くは 遠洋漁業の漁師です。 一年の大半を 海の上で過ごします。>
<家長が留守の間 家を守り 生計を立てるのが 女の役目。 伝統的な海女漁は 今も各地で行われていますが その中で 日本のみならず 世界的に見ても 最北端に位置するため 袖の海女は 北の海女と呼ばれています>
漁協
アキ「この きれいな人 おばあちゃん?」
弥生「いや おらだ。」
かつ枝「おめえは こっちだ! それは おらだ。」
美寿々「いや~おらだ!」
弥生「おれだよ。」
かつ枝「んだべか?」
天野家
大吉「夏ばっぱが 海女クラブを作った頃 昭和50年か。」
安部「プロのカメラマンも来たりね。」
大吉「あのころが ピークだったね~!」
安部「んだ~!」
大吉「懐かしんでる場合でねえべ! 北の海女の伝統を ここで 絶やす訳には いかねえんだ!」
春子「えっ? 私 関係ないからね。」
大吉「あるべ! 海女と北鉄は 観光の二枚看板だべな!」
北三陸鉄道リアス線
夏「北三陸鉄道リアス線 通称 北鉄名物 ウニ丼は いかがですか?」
「あっ ウニ丼下さい。」
夏「ありがとうございます。」
天野家
大吉「夏ばっぱの 見事な潜りを見物したあとは 北鉄さ乗って リアスの限定30食 ウニ丼 食いながら 車窓の景色を眺めるのが 定番コースだべな。」
安部「その名物ウニ丼も 夏さん 今年いっぱいで やめるって言ってんの。」
春子「ちょっと待ってよ。 その観光の二枚看板の どっちも うちの母親が背負ってるって事?」
大吉「んだ。」
春子「背負わせないでよ。 64の ばあさんにさ~。」
大吉「あっ もちろん 海女と北鉄だけではねえ。 ほかにも名物あるさ。」
春子「例えば?」
安部「まめぶ。」
大吉「いや~ まめぶは違う。」
安部「なして? まめぶ うめえべ?」
大吉「それは うめえけど まめぶを推し過ぎるのは危険だ。 安部ちゃんが思ってるほど まめぶに将来性は ねえ。」
安部「え~?」
大吉「大体 甘いのか辛いのかも 分かんねえ おかずなのか おやつなのかも 分かんねえもの どんな顔して お客に出せばいい? それに まめぶは…!」
春子「もう やめてよ! 人んちの玄関先で『まめぶ まめぶ まめぶ』って! まめぶの将来なんか どうでもいいよ! 大体 何なの? 何しに来たの!?」
大吉「だから! 夏さあんの後を継げるのは 春ちゃんしか いねえってば!」
春子「嫌! 絶対に嫌! 私には 私の人生があんの。 生活があんの。」
大吉「春ちゃん…。 あんたら 親子の間に その… いろいろ いろいろ… いろいろ あったのは 知ってる。」
春子「いろいろ? いろいろ。 いろいろ あったよ!」