二階の梅の居る部屋に入ってしまう裕一
梅「うわ~!」
裕一「おおっ! おっ…。」
梅「何やっとるんですか! 不法侵入ですよ。」
裕一「えっ… ごめんなさい。 えっ… あれ? み み… みんなは?」
梅「吟は 東京へ行くための買い物。 ほかは軍に納品しに行った。」
裕一「あ~ そう…。]
梅「びっくりした~。」
裕一「う… 梅ちゃん 何してんの?」
梅「姉に詩を書けと言われました。」
裕一「あ~ そう。 か… 書けた?」
梅「質問があります。」
裕一「はい。」
梅「作曲って どうやっとるんですか?」
裕一「うん? 何で そんなこと知りたいの?」
梅「質問に質問で返さないで下さい。」
裕一「すいません。 う~ん 曲 作る時か… う~ん…。 まっ 大体 何か きっかけあったら こう バ~ンって曲が降ってくる感じ?」
梅「うんうん… 例えば?」
裕一「ほら この間 うちの父さん来たでしょ? 久しぶりに いびき聞いたら 『あ~ これだ!』っていう そういう…。 参考になる?」
梅「全くならん。」
裕一「だよね。 でも 他に言いようないよ。 何で そんなこと知りたいの? ほら… 2人だけの秘密にすっから。」
裕一「はあ~ 16歳! すごいね!」
梅「うん… 16歳で賞を取る子がいるのに 私は 1度も最後まで書けたことがない。 面白くないとか ありきたりだって気がして…。
梅「裕一さん さっき バ~ンと降ってくるって 言っとったけど どんな感じ?」
裕一「う~ん… 何か きっかけあったら こう 1曲まるまる書くことが多いかな。」
梅「はあ… やっぱ そうなんだ。 駄目だな~ 私。」
裕一「梅ちゃんね… 僕 1度 音楽 諦めたことあったんだ。」
梅「えっ?」
裕一「家庭の事情だったんだけど… 復帰した。 何でだと思う?」
梅「いいレコードに出会った。」
裕一「フフフ… いや~ それなら かっこいいんだけどね。 失恋。」
梅「ハハハ! うそ… そんなこと?」
裕一「うん… いろんな人から 音楽学校出ないと プロの作曲家には なれないって言われ続けた。 でも 今 プロになる道が… 最後のチャンスが目の前に広がってる。」
梅「何で? 何で そんな時に こんなとこにいるの?」
裕一「だって… 音さんいないと 曲 書けないんだ。」
梅「えっ?」
裕一「ものを作るには 何かのきっかけとか つながりが必要なんだ。 ほら 梅ちゃん 今 自分の中から出そうとしてっけど 書けないなら ほら… 外に 目 向けてみっといいかも。」
梅「あっ…。」
裕一「うん。」
梅「うん なるほど… 参考になった。」
裕一「あっ よかった。 いや~ 本当に いきなり すみませんでした。 お邪魔しました。」
梅「しっかりしとるね。安心した。 お姉ちゃんの歌詞 書いてみる。」
裕一「頑張って。 失礼します。」
馬具を卸した帰りの同中
音「新しい馬具 気に入ってくれとったね。」
光子「最近 発注が少ないから 品質がよくないとね。」
音「うちがあるのは岩城さんのおかげだ。」
光子「あっ そうだ…。 お墓参り 行かない? 音の報告もしなきゃいけないし。」
音「うん。 岩城さんは?」
岩城「あ~ 仕事があるもんで 先に。」
音「薄情だな~。」
光子「岩城さん 月命日には必ず行っとるのよ。」
安隆の墓
光子「何か お願いした?」
音「えっと…結婚が認められますようにと 私も留学できますようにと うちの商売が引き続き うまくいきますようにと お姉ちゃんに いい縁談がありますようにと 梅が もっと素直になりますようにと それから…。」
光子「ハハッ… 多すぎ! フフフ。 お父さん 困るわよ。」
音「そうかな? 頼むのは タダだよ。」
光子「まあね。 さみしくなるな…。 音がいなくなると さみしくなる。」
音「外国行ったって 東京行ったって 私の故郷は ここしかないんだもん。 帰ってくる。 だから…。」
光子「音… 忘れないで。 お父さんも お母さんも あなたをいつも見守ってる。 絶対に忘れないでね。」
音「うん。」
光子「幸せになるんだよ! 約束だからね!」
音「うん! うん! うん!」
光子「フフフ…。」
関内家
音「『バンジヨシ スグカエレ チチ』。 よかった!」
吟「おめでとう!」
光子「演奏家 どうするの?」
裕一「あ~ もちろん やって帰ります。」
光子「終わったら 音の入試試験もあるけど。」
裕一「試験が優先です。 あっ 僕 先に帰って いろいろ整えておきます。」
音「御手洗ティーチャーが『ミーの推薦もあるし 絶対オーケーだ』って」
光子「はあ~ しかし 本当よかったわ! あの男…。 口だけと思っとったけど…。 フフフ…。