糸子「アホか!」
優子「何でや?」
糸子「何でて 里恵どないすんや?」
優子「連れて行く。」
糸子「はあ? 連れて行って あんたが店に行ってしもたら 里恵 誰が見んや?」
優子「悟さんの実家に 頼んでみるとか まあ どないかする。」
糸子「はあ? ほんな ほんでもやな。」
優子「お母ちゃん 悪いけど。 今の うちの店に 直子の仕事を ほんまの意味で手伝える人間は 他にいてへん。 うちだけや。 正直 お母ちゃんとか 昌ちゃんでは 無理やと思う。」
糸子「何? あんた それ どうゆう意味や。」
優子「そうゆう意味や。」
糸子「何 言うてるか 分かって言うてんやろな?」
優子「分かってます。 せやけど ほんまの事やさかい 言わしてもらう。 お母ちゃんも 昌ちゃんも 直子の服なんか けったいなもんにしか 見えへんと思うんやし。」
昌子「はあ そらそやな。」
糸子「そやけど あんたかて結婚式ん時 あの子の格好 オウム呼ばわり しちゃあったやないか!」
優子「うん 常識で言うたら ただのオウムや。 けど あれが あの子の才能の形で それは すごいもんなんや。 悔しいけど。 直子が今 あの年で 東京みたいな厳しい街で 何をやろうとしてんのか うちには よう分かんねん。」
優子「それが どんだけ難しい事か あの子が求めて苦しんでる理想が どんだけ高いもんかを ほんまに分かって 手伝うてやれんのは うちだけや。 お願いします。 うちを 東京に行かせて下さい!」
糸子「知らん! 勝手にしい! 聡子 御飯 食べり!」
聡子「は はい。」
玄関前
昌子「ほな お疲れさんでした!」
松田「また明日。」
千代「はい 気ぃ付けて。 お疲れさんでした。 里恵ちゃん あんた 東京 行くんやなあ。」
優子「うん 行くもんな。 里恵。」
千代「これ。」
優子「え?」
千代「あんただけにと ちゃうよって 遠慮したあかんで。 直子に うなぎでも食べさしたり。」
優子「うん 分かった。」
千代「うん 気ぃ付けてな。 里恵ちゃん 風邪 引かさんようにな。」
優子「おおきに。」
千代「おやすみ。」
優子「おやすみ。」
千代「うん。」
優子「ほな 行くわ。」
千代「うん おおきにな。」
優子「おおきに。 うん。」
居間
<言いよった… あいつ。 うちでは もう 直子の役に立てん ちゅうて言いよった!>
糸子「ああ~! 半人前が! 何じゃ あいつら! あんな 仲悪いくせに! ああ~ うん! う~ん! 聡子。」
聡子「はん?」
糸子「あんた 直子の服 格好ええと思うか?」
聡子「ふん。」
糸子「思うんか?」
聡子「ふん。 うちも あんなん着たい。」
糸子「嘘や!」
聡子「へ?」
糸子「嘘つき! 正直に あんなん変やて言い!」
聡子「ええ~ 何で?」
糸子「何でて どうゆう事やん? ちょっと!」
聡子「アハハ!」
糸子「これ! これ!」
聡子「格好ええ!」
糸子「変やろ あんなん変やろ!」
聡子「格好ええ うちも あんなん着たい!」
糸子「ほう~ 着たいん。 あんな 変な こっちゃ こっちゃしたやつ!」
直子の店
直子「お願いします! お願いします!」
客1「え~? 嫌だ 何なの これ?」
直子「いらっしゃいませ!」
客2「こんなの ほんとに 着る人 いるの?」
直子「はい。」
客1「本当? うちの娘が こんなの着たら 家に入れないわよ! ねえ!」
客2「本当にね!」
客1「行きましょう。」