心斎橋 北村の工場
(頬をたたく音)
糸子「おはようございます。」
周防「おはようございます。」
糸子「あれですねえ もう 随分 朝も あったか なりましたねえ。」
周防「顔…。」
糸子「え?」
周防「ここんにき 何か 赤うなっとですよ。」
糸子「ほうですか?」
周防「誰かに たたかれたと?」
糸子「いやいやいや… 大丈夫です。」
周防「そうね。」
<ああ やりにくい>
糸子「ここを ちょっと空けてあげると 女性もんですよね。」
<いや ほんでも この人 仕事は やりやすい>
糸子「ここ 合わせて ピンで留めます。」
周防「はい。 はい。」
糸子「おおきに。」
<やっぱし やりにくい>
♬~(三味線)
糸子「どうぞ。」
周防「あ ありがとうございます。」
糸子「せやけど 周防さん。」
周防「何ね?」
糸子「何で 工場の監督なんか 引き受けたんですか?」
周防「う~ん。 おいも テーラーの仕事は 好いとうばってん。」
糸子「今は テーラーの仕事かて なんぼでも あるでしょう? 男の人が 背広を ごっつい 着だしてるやないですか?」
周防「ばってん そんおかげで とにかく 数ばっかい いっぱい作らされるっけん。 テーラーも 工場んごと なっとっとです。 そいやったら こっちん工場でも よかかって 思うたとです。 北村さん 給料ば 結構 くれるって言うたけん。 そいに 婦人服の勉強 できるっていうとも おもしろかごたって 思うたけんね。」
糸子「へえ~婦人服にも 興味がありますか?」
周防「そいと 小原さんが指導に来るって 聞いたけん。」
♬~(三味線)