台所
小しず「これから若え男の人は どんどん戦争に 取られていくんじゃろうなあ。」
安子「うん…。」
小しず「算太… どこで どねんしょうるんじゃろうか。」
安子「お兄ちゃんのことじゃ たくましゅう生きとるわ。」
小しず「稔さんは? お手紙は ず~っとやり取りしょんじゃろ。」
安子「うん…。 学生は 召集されんいうて聞いとる。」
小しず「そう。」
安子「お母さん。 勝手をして ごめんなさい。 じゃけど 私 稔さんのことが…。」
小しず「分かっとる。 お父さんも それは もう 重々 分かっとる。 もうお店のために 安子に お見合いを勧めたりはせんはずじゃ。 ただ… お父さんも お母さんも 心配なんじゃ。 安子が傷つくことに なってほしゅうねえんじゃ。」
全国中等学校優勝野球大会
(歓声)
ラジオ『全国中等学校優勝野球大会 岡山県大会の結果です。 第2回戦 弓丘中学 対 岡山西商業 7対3で弓丘中学の勝利』。
橘家
工場
黒鉄「大将。」
金太「おえん。 こねえなもん たちばなの菓子じゃねえ。 やり直せ。」
黒鉄「はい。」
金太「黒。」
黒鉄「はい。」
金太「乾燥麦芽 入れてみい。 芋の甘みが引き出されるはずや。」
黒鉄「やってみます。」
丹原「こっちは どんなですか? なんきんで作りました。」
ラジオ『ニュースを申し上げます。 昨22日 現地時間未明 ドイツのヒトラー総統は ソビエト連邦に宣戦を布告 両国は 戦闘状態に入りました。 ドイツ軍は 猛烈なる…』。」
黒鉄「ドイツとソ連が戦争ですか…。」
金太「また どこで どねえな影響が出るやらなあ…。」
学校
監督「文部省より 通達があった。 本年より 全国的なスポーツの催しは 禁止じゃそうじゃ。 今年の夏の甲子園大会は 中止になった。 無念じゃ。」
神社
安子「勇ちゃん? どねんしたん? こねんとけえ 一人で。 出征された菊井さんが ご無事でありますように。 お砂糖がのうても おいしいお菓子ができますように。 それから… 勇ちゃんが甲子園に行けますように。 もう準決勝まで 進んどるんじゃもんな。 私やこが お願いせえでも きっと行けるなあ。」
勇「甲子園は中止になった。 最後の夏は終わったんじゃ。」
安子「ごめん。 ごめんなさい。 私… 何も知らなんで…。 あの… 稔さんが言うてたよ。 勇ちゃんにゃあ とても かなやせんて。 こうと決めたら曲げん 強え信念を持っとるて。 じゃあから そねえな勇ちゃんじゃったら きっと…。」
勇「何で おめえは そねん…。」