社長室
(ノック)
山川「はい。」
なつ「失礼いたします。」
山川「ちょっ… おい… 何なんだ? 君たちは一体。」
仲「山川社長 作画課の奥原なつより ご報告があります。」
山川「何ですか?」
なつ「私は この度 その… 子どもができました。」
山川「それは… おめでとうございます。」
なつ「ありがとうございます。」
山川「分かりました。 産休を取りたいということですね?」
神地「それだけじゃないんです! その産休後に 契約に切り替えろなどと 言わないでもらいたいんです!」
下山「うちの妻の時のように。」
なつ「どうか お願いします!」
山川「君は 何なんだ? これは 一体どういうつもりですか? ほかの人を巻き込んで まるで 組合のデモじゃないですか!」
仲「そう思って頂いても 差し支えありません。」
山川「仲さん 井戸原さん あなたたちまで いつから組合員になったんですか?」
井戸原「我々 アニメーターは 結束の固さを信条に 仕事をしております。 これは 組合を超えた 我々一人一人 個人的な支援と お考え頂いて結構です。」
仲「我々は いちアニメーターとして 奥原さんの意志を尊重したいと思います。 奥原なつを契約にするなら 我々全員を契約にして下さい。」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
山川「おい… ちょっと待ってくれ! 契約というのは なにも 意地悪で持ちかけてるわけじゃないんだ。 働きやすいと思って 提案してるだけなんだよ。」
なつ「出勤時間が自由になるからですか?」
山川「そうです。 赤ちゃんがいれば どうしたって 長くは働けなくなる。 以前と同じ責任を背負えば どうしたって 周りに迷惑がかかるでしょ。 それこそ 結束を乱すことになるでしょ。 だから 契約にすれば 自由に時間を使って働けて その方が楽でしょ。」
なつ「私は 楽がしたいわけじゃありません。 お金が欲しいわけじでもありません。 仕事で もっともっと成長していきたいんです。 いい作品を作りたいんです! どうして それが 子どもができると できないんでしょうか? 今まで当たり前だと思っていたことを 会社から望まれなくなることが 一番苦しいんです!」
山川「現実問題として 望んでも 期待には応えられないでしょう。 ここまで来たら はっきり言うけど 君には 次の作品で 作画監督に なってもらうつもりだったんだよ。」
なつ「えっ…。」
仲「テレビで作監を?」
山川「そう。 作画全体の責任を持ってもらい 演出に近い責任を担うことになる。 奥原さんは その作画監督に 女性としては初めて 抜てきする予定だったんだ。 だから 妊娠の話を聞いた時は 正直 がっかりしたんだよ。 いや おめでたい話だからね がっかりと言っちゃ失礼だけど。」