恵里「なんか 怖くなってしまって…。 なんか 不安で 不安で たまらなくなってさ。 私 この子を ちゃんと 産めるのかなって…。 この子に なんかあったら どうしようって…。 もう 道 歩いてるだけで 怖くてさ なんか 全然 ダメになって…。 ごめんなさい。」
文也「謝る事じゃない 普通だよ それが…。」
恵里「うん。 単純だねぇ 私って。」
文也「やっぱり そうか…。」
恵里「え?『やっぱり』って?」
文也「さっきさ 太田先生 俺にとこ 訪ねてきてくれてさ。」
恵里「先生が?」
文也「恵里に会ってる時に 帝王切開 入って 怖がらせたのでなかって 心配してたよ。」
恵里「そう…。」
文也「その時の赤ちゃん 無事に産まれたらしいよ。」
恵里「そう… よかった…。 情けないね 私… 看護婦なのに 逃げだしてしまって…。」
文也「そんなの 関係ないだろ? あのさ 恵里…。」
恵里「ん?」
文也「沖縄に 帰ったら?」
恵里「沖縄?」
文也「沖縄で産んだらどうかなと 思って…。」
恵里「沖縄で?」
文也「そのほうが いいかなって 思ったんだ。」
恵里「ああ… でも…。」
文也「東京へ出てきてからさ 恵里 ゆっくり 沖縄に帰った事んないでしょ? 結婚のお願いに行った時だって 結婚式の時だって バタバタだった。」
恵里「うん…。」
文也「子供が産まれたら 産まれたで 大変でしょう? のんびり 実家で甘えられるなんて ずっと ないかもしれないしさ。」
恵里「うん…。」
文也「そういうの いいんじゃないかな…。 胎教にも いいと思うよ 母親が リラックスできるっていうのは。」
恵里「うん。」
文也「俺は 一緒にいたいし 寂しいけどさ 恵里のためにも 赤ん坊のためにも いいんじゃないかな と思ってさ。 それに 喜ぶだろ? 古波蔵家は…。」
恵里「そっか…。 沖縄か…。」
古波蔵家
ハナ「何してる?」
恵文「おばぁは…。」
ラジカセを止める恵文
ハナ「何でや?」
恵文「せっかく 録音していたのにさ。」
勝子「何で?」
恵文「『何で』って これくらいも 分からないかねぇ。 恵里に 送ってあげようと 思ってさ。」
勝子「だから 何で?」
恵文「胎教っていうのかね こないだ テレビでやっていたさ。 おなかの子供のために 音楽を聴かせてやると いいってさ。」
ハナ「恵文の声が おなかの子に いいとは思わんがね。」
恵文「何でよ。」
勝子「恵里は 大丈夫かなあ。『こないだから 産休に入った』って 電話あったけど…。 もう そろそろ お産が近くなって やっぱり 心細くなったり 不安になったりしてるのではと思うわけ。」
恵文「そうかねぇ。」
勝子「何か 私のほうが落ち着かない。」
恵文「遠いねぇ 東京と沖縄は。」
勝子「そうだねぇ。 文ちゃん。」
恵文「はいよ。」
勝子「行こうか? 行こう 東京に。 じっとしてられないさ。」
恵文「そうだね 行っちゃおうかねぇ。」
勝子「うん。」
一風館
管理人室
静子「こんばんは。」
みづえ「どうも…。」
静子「いつも お世話になっております。」
みづえ「いいえ 何をおっしゃるの。」
静子「チョット 仕事で 近くを 通りかかったものですから。」
みづえ「どうぞ どうぞ。」
静子「どうも 失礼します。」