海女カフェ
夏「どうした? 母ちゃんが怖(こえ)えか?」
かつ枝「無理もねえ 顔たたかれたんだもんなあ。」
アキ「あれは おらが悪い。」
夏「え? なして そう思う?」
アキ「コロコロ言う事 変わるから。 東京さ帰りだぐねえって 言ったり 帰りでえって言ったり…。」
弥生「海女になりたいっつったり 南部もぐりさ憧れたりな。」
アキ「でも どれも本気なんだ。 こごさ残って 就職して 夏の間だけ 海女やって それはそれで 間違いなく楽しいべ。 でも… こんな事 言ったら 怒られるかもしんねえが…。」
夏「怒んねえがら言ってみろ。」
アキ「海女は好きだけど 今じゃなくても できるべ。」
夏「…。」
アキ「だけど ユイちゃんと東京さ行って アイドルさ… なれるかどうか分がんねえけど それは 今しか できねえべ!」
美寿々「なれながったら どうする?」
アキ「そん時は 潔く帰ってくるべ。」
かつ枝「帰ってきて また潜んのか?」
アキ「当たり前だ! おら 海女だもん! ただし 町のためとか 誰かのためでもねえ。 おらが潜りでえがら 潜るんだ。」
一同「…。」
アキ「じいちゃんが言ってた。 ここが世界で一番いい所だって 夏ばっぱに教えるために 長く航海してるって。」
回想
忠兵衛「いろんな国の いろんな町を この目で見て回ってよ んでも やっぱ ここが 一番いいぞって教えてやってんだ。」
アキ「東京よりも?」
忠兵衛「北三陸も 東京も おらに言わせれば 日本だ。」
回想終了
アキ「おらも一緒だ。 ここが 一番いいぞって みんなさ教えるために 東京さ行ぐ。 行ぎでえんだ。」
かつ枝「行がせてやっぺ!」
美寿々「え?」
かつ枝「行げ アキ。 ここは おらたちに任せて 東京で頑張れ!」
アキ「かつ枝さん…。」
かつ枝「誰のためでもねえ。 潜りでえ時に潜る。 そったな 当たりめえの事を まさか おめえがら 教わるとは思わねがった。」
弥生「んだな。 朝が早(はえ)えとか 海が しゃっこいとか 家族のため 町のためだって 自分さ言い聞かせて 乗り越えてきたが でも それは嘘だ! 好きだから潜る! それが 根本だべ。」
美寿々「若(わけ)え時は 潜んのが面白くて 潜るだけで十分だったもんね。 アキちゃんも潜りてえ時に 潜ればいい。」
アキ「でも おらが いねぐなったら 観光客が…。」
花巻「んだ んだ。 せめて 9月の本気獲(ど)りまで。
かつ枝「いや 駄目だ。 今すぐ行け。」
花巻「ここの改装費 まだ ローン残ってるべ。」
かつ枝「じぇ…。 銭なんか なんとかなる! おめえ一人 欠けたぐれえで 40年続いた 海女クラブが 廃れてたまるもんか!」
弥生「んだ んだ 海女は アキだけでない! 後継者なら ほかにもいるべ! 何なら 花巻ちゃんとこの娘っ子も なあ!」
鈴「おら アキちゃんみたいに潜って ウニ取りてえ!」
琴「おら ミス北鉄だ!」
(笑い声)
かつ枝「どんだべ 夏ばっぱ アキの好きなようにさせて やってもらえねえべか。」
弥生「夏ばっぱ おらからも頼む。 行がしてやってけろ!」
夏「うん…。 おめえらの気持ちは よ~く分かった。 アキ…。 おめえ 東京さ行ってこい。」
アキ「ばっぱ…。」
夏「町の大人たちは おらが説得する。」