音楽学校
環「残念ね。 あなたには期待していたんだけど。」
音「申し訳ありません。」
環「謝ることないわ。 ほとんどの人が いばらの道ではなく 平穏な幸せを選ぶ。 あなたも その道を選んだ。 それだけのことよ。」
音「私は 歌手になる夢を 諦めたつもりはありません。」
環「どういうこと?」
音「今まで 私は 自分のことしか考えていませんでした。 この子は 裕一さんと私 2人の子どもなのに。 1番大事なことを忘れていたんです。」
音「夢も子どもも 夫婦2人で育てていきます。 彼がいてくれたから選べた道です。 お世話になりました。」
環「また会える日が来ることを 楽しみにしているわ。」
音「はい。」
半年後
裕一「ただいま。」
音「お帰りなさい。」
裕一「フフフフ… ジャ~ン!」
音「あっ いっぱい買ったね。」
裕一「安かったからね。 ほら 手紙来てたよ。」
音「ありがとう。 千鶴子さんからだ。」
裕一「あ~ 留学したんだっけ?」
音「そう ジュリアード。」
裕一「いいな~!」
千鶴子「お元気ですか。 こちらは なんとかやっています。 昨日は ラフマニノフ先生による 特別授業がありました』。」
音「ラフマニノフ!? いいな~!」
千鶴子「『そちらは いかがでしょうか。 早く 音楽の世界に復帰して下さることを 願っています。 あなたに負けたままでは 納得がいきませんから』。」
音「千鶴子さんらしい。」
裕一「うん?」
音「うん?」
裕一「よし 片づけっかな。」
音「うっ!」
裕一「うん?」
音「来た…。」
裕一「えっ? 今? ちょっ…。」
音「来た!」
裕一「来た? ちょちょ…。」
音「来た!」
裕一「ゆ… ゆっくりね ゆっくりね。」
音「裕一さん。」
裕一「うん。」
音「さ… 産婆さん。」
裕一「産婆さん 産婆さん はい。」
音「裕一さん 産婆さん 呼んできて。」
裕一「産婆さん うん。」
音「裕一さん…。」
裕一「1歩… 1歩ずつ…。」
音「よし! うん! 裕一さん…。」
裕一「うん。」
音「ああ~! あっ あっ…。」
産婆「あっ 出てきた!」
産婆「おめでとう。 女の子ですよ。 はい はい… は~い。」
裕一「ああ…。 音…。」
音「見て女の子だって。」
2人の人生に また1つ 宝物が増えました。