同じころ 藤堂先生もまた 父親と久しぶりに向き合っていました。
藤堂家
藤堂「どこか行くの?」
晴吉「実はな 陸軍からの要請で 満州の視察に 相談役として ついていくことになったんだ。」
藤堂「とっくに退役した身だろ?」
晴吉「この年になっても お国のために 働けるというのは大変名誉なことだ。」
藤堂「まさか… 今更 ついてこいなん 言わないよね?」
晶子「お待たせしました!」
晶子「今日 とってもいいことがあったんですよ。 清晴さんの教え子が立派な作曲家になって 小学校の校歌を作ってくれたんです。 その凱旋のお祝いがあって。」
晴吉「お前も 田舎教師じゃなくて お国のために戦う身だったら 凱旋式でも何でも してもらえたろうに。」
藤堂「僕は僕なりに… 国のためになることを してきたつもりです。 でも それは 父さんのやり方とは違ったんです。」
晴吉「お前も親になれば 戦うことの意味が分かる日が来る。」
晶子「あっ 動いた! ほら!」
晴吉「おお… おおっ!」
晶子「清晴さんも ほら!」
藤堂「うん… 動いてる!」
晴吉「ハハハ…。」
晶子「この子は強い子になりますよ。 お国のために戦ってきた おじい様の強い血を受け継いでますからね。」
藤堂「そうかもな。」
晶子「私に?」
晴吉「丈夫な子を産んで 清晴を1人前の父親にしてやって下さい。」
晶子「はい!」
藤堂「父さん… ありがとう。」
喜多一
音「お義母さん。」
まさ「うん?」
音「お願いします。」
まさ「はい。 うん!」
裕一「母さん… これ。 もうしばらく ここにいさせてもらうから 食費に使って。」
まさ「そんな… いいから。」
裕一「いやいや… じゃないと ほら 居づらいからさ。」
浩二「母さん 今日…。 そんなもの受け取んなくていいからね。」
裕一「浩二… 違うんだって 浩二!」
裕一「これ 滞在費だから。 余ったら 父さんたちに うまい酒でも飲ませてやって。」
浩二「そんなことされる筋合いなんかねえ。」
裕一「なあ ちょっと… 浩二。 待てって… なあ ちょっと これ…。 あって困るもんじゃないだろ?」
浩二「なにが うまい酒だよ。」
裕一「なあ… 何があったんだよ 本当に。」
浩二「関係ねえべな。」
裕一「ちょっと 浩二 浩二! 頼むから… お… お願いだから 教えてくれよ! 何なんだよ!?」
浩二「父さん もう長くねえんだ。 胃がんだって。 もう 手の施しようが…。」
裕一「いや… う う… うそでしょ? だって あんな… 元気そうだったのに。」
浩二「父さんの前で… 父さんの前で そんな顔 絶対にすんなよ。 俺たちだって 父さんの体 気遣いながら 必死に隠してきたんだ。」
浩二「もし バレたら… ただじゃおかねえかんな。」