客間
ユキエ「お父さん 寝ついてからも ちっとも変わらんで 威張っとったね。」
ミヤコ「うん。」
邦子「寝ている間にも いろんな事を 思いつかれるんですよ。」
塚本「どんな事です?」
ミヤコ「私達に用事がある時は ラッパを吹くんです。」
回想
(ラッパの音)
回想終了
邦子「用事によって 吹き方が変わるんです。」
ミヤコ「あれは 貴司が子供の時に 吹いとった おもちゃのラッパだわ。」
満智子「そげですか。 貴司さんの…。」
哲也「貴司の奴 今頃 お父さんに叱られとるぞ。 なして 先に来とるんだって…。」
ミヤコ「調子のええ時は よう詰め碁を打っとりました。」
布美枝「昔 うちに よう碁打ちの人が 来とったね。」
ユキエ「料理 出したり お酒出したり お母さんと おばば 大変だったんだよね。」
ミヤコ「うん そげだね。」
哲也「『お前は ヘボでいけん』と言って 俺は 相手にされんだったわ。」
ミヤコ「村井さんの腕は まあまあ買ってとりました。」
茂「自分も 『ヘボ』と 言われとりましたが。」
ミヤコ「けど 『次の対戦に備えて』と 詰め碁を打っとりましたけんね。」
邦子「テレビも 楽しみにしておられましたよ。 『悪魔くん』の初めての放送の時 お父さんも喜んで…。」
輝子「村井さん すみませんでした。」
茂「え?」
輝子「今だから言いますけど 私は 結婚に反対しとったんです。 漫画家いう仕事が どげな仕事か よう分からんだったし 見合いして たった5日で 婚礼というのがねえ。」
喜子 藍子「5日で?」
茂「あの時は 締め切りが迫っとったんで…。」
輝子「人を見る目… お兄さんには かなわんだったわ。」
ユキエ「私ら みんな お父さんに 婿さん 決められたような もんだったけど… だけん こげして 幸せにやっとるんだけん やっぱり 見る目があったのかな?」
子供1「あの おじちゃん 『鬼太郎』の漫画 描いてる人?」
横山「ああ そげだぞ。」
子供1「ねえ 『鬼太郎』描いて~。」
子供2「『目玉親父』描いて。」
ユキエ「これこれ せがまないの。」
茂「いや~ ええですよ。 俺のスケッチブック 持ってきてくれ。」
布美枝「はい。」
茂「はい 出来た。」
子供1「うわ~ 『ねずみ男』だ!」
布美枝「こげな時に 絵を描いて 笑っとったらいけんかな。」
ミヤコ「ううん。 ほら うれしそうに見ちょ~わ。 お父さん 満足しとるよ。 何でもない 普通の人生だったけど 俺は これだけのものを 残したんだぞって。」
ミヤコ「あんた 知っちょ~?」
布美枝「ん?」
ミヤコ「彼岸花の咲く頃に 亡くなった人は ご先祖様に守られて あの世に行けるっていうんだよ。 お父さんも おばばや 貴司や ご先祖様と一緒に 彼岸に渡っていけるわ。 よかったわねえ… お父さん。」
子供1「わあ~ 『一反木綿』だ!」
茂「これはな… 似とるだろ。」
(一同の笑い声)
布美枝「もう… また言っとる!」
布美枝「お父さん… みんな 笑って暮らしとるよ。」