花子「ありがとう。 それで 相談って?」
朝市「これだけんど…。」
花子「生徒たちの つづり方。」
朝市「文章を書く事で 子どもたちの考える力を 伸ばしてやりてえと思って ずっと つづり方の授業に 力を入れてきただ。」
英治「つづり方は 物事を 客観的に捉える力が培われるし 批評の目も養われる。」
朝市「長え事 指導してきて 随分 生徒たちの作品が たまったもんで 思い切って 本にしてみっかと 思うだ。」
花子「いいじゃんね! 自分の書いた つづり方が 本になったら 子どもたち 喜ぶわ。」
朝市「青凛社で こりょう 本にしてもらえんかと思って 今日は 頼みぃ来たです。」
英治「もちろん。」
朝市「よかった。」
英治「では お預かりします。 すぐに 見本組みに 取りかかりますね。」
朝市「よろしくお願えします。」
英治「ゆっくりしていって下さい。」
朝市「ああ ほうだ。 こないだ 武に誘われて 甲府で演芸会に行ったら はなの ものまねしてる 芸人さんがいたさ。」
花子「てっ… 私のものまね?」
回想
芸人「会場の大きい方々。」
(笑い声)
芸人「ごきげんよう。 これから 皆様方の ラジオのおばさんの時間です。 また お話ししましょうね。 それでは 皆さん ごきげんよう。 さようなら。」
(拍手と笑い声)
回想終了
朝市「ごきげんようのおばさんって はな すっかり有名人じゃんね。」
花子「てっ…。」
朝市「はなの『ごきげんよう』が みんなに広まって おらもうれしいだよ。」
花子「朝市…。」
朝市「はなが東京の女学校から 甲府に帰ってきて 初めて 『ごきげんよう』って言葉を聞いたときゃあ えれえ びっくりしたけんどな…。 今 思うと はなが すっかり 東京の お嬢様みてえになっちまって 寂しかっただな。」
朝市「ふんだけんど はなが 女学校で うんとこさ 頑張ってるの分かって おらも もう一度 勉強してみよう って気持になれただ。 はなには 感謝してる。 おらが教師んなれたのは はなのおかげじゃん。」
花子「朝市… 急に どうしたでえ?」
朝市「ず~っと お礼が言いたかっただ。」
花子「朝市…。」
朝市「今日は もう一つ 報告があって来ただ。」
花子「何?」
朝市「はな。 ももちゃんも聞いてくりょう。」
朝市「おら… 今度 結婚するだ。」
2人「てっ!」
花子「結婚? 朝市 おめでとう! 相手は どんな人? 甲府の人?」
朝市「ああ。 教員仲間の妹じゃん。」
もも「どんな女の人?」
朝市「気さくで よく笑う人だ。 本 読むのが好きで…。 たまに怒ると おっかねえけんどな。」
花子「へえ~!」
もも「お姉やんみたい。」
花子「えっ?」
(笑い声)
朝市「顔は 似てねえけんどな。」
花子「リンさん 喜んでたら?」
朝市「うん。 結婚するって言ったら うちのおかあ 急に泣きだして びっくりしたさ。 この年まで独りだから もう諦めてただとう。 おかあにも 随分 心配かけちまった。」
花子「よかったね 朝市…。 おめでとう。」
朝市「はな… 何で はなが泣くでえ?」
花子「だって… 私 本当にうれしくって…。 こんな ちっくい時から知ってる 朝市が お嫁さん もらうと思ったら…。」
朝市「おら… はなと ももちゃんには こぴっと報告したかっただ。」
花子「本当におめでとう 朝市。 はあ~ とうとう もらったか~…。」