夜
回想・蓮子「『君死にたまふことなかれ』。 『君死にたまふことなかれ』。」
もも「兄やんがいなくなったら さみしいなあ…。」
吉太郎「おらが軍隊に行くのは 家族のためじゃんけ。 みんなに ちっとでも楽さしてやりてえだ。 はなが帰ってきたし 兄やんも これで安心して行ける。」
もも「兄やん 好きな人は いねえのけ?」
吉太郎「いたけんど もう 遠くに行っちまった。」
もも「さみしいね…。」
吉太郎「ボコのくせに ませた事言うな。」
嘉納邸
「旦那様 お帰んなさいませ。」
嘉納「おう。」
嘉納「冬子は?
「タミしゃんと お風呂に入っとらっしゃあです。」
蓮子「あ… 今夜は お早いこと。」
嘉納「あんたは 本ば読んどる時が 一番 ご機嫌がいいっちゃね。」
蓮子「うれしい事があったんですの。 女学校の友達が 童話で賞を取ったんです。 それが 大層面白いお話で。」
嘉納「俺は 本は好かん。」
<伝助は 本が嫌いなのではなく 字が読めないという事に 蓮子は とっくに 気が付いていました。 無学である事をバネに 裸一貫 のし上がってきた男なのです。>
蓮子『はなちゃん ご無沙汰しております。 「みみずの女王」 大変面白く拝読しました。 本で知ったのですが 甲府に帰られたのですね。 お母様やご家族の皆さんは お元気でお過ごしですか? ああ はなちゃん 何もかもが 懐かしくて たまりません』。
回想
蓮子「いい加減にして下さらない!? 子どもじみた友情ごっこは もう飽き飽きしました!」
はな「友情ごっこ…?」
蓮子「まさか 本当に 私と腹心の友になれたと 思った訳じゃないでしょうね? そもそも 伯爵家で育った私と 山梨の貧しい農家で育った あなたとでは 住む世界が違い過ぎるんです!」
回想終了
蓮子「私から 二度と連絡なんか できるはずないのに…。」
東京・祝賀会会場
<そのころ はなは 久しぶりに東京に来ていました。>
はな「ごきげんよう。 この度は お招き ありがとうございます。」
須藤「祝賀会 もうすぐ始まりますから。」
英治「あっ。」
はな「村岡印刷さん…。」
英治「安東はなさん この度は おめでとうございます。」
はな「はなじゃありません。」
英治「はい?」
はな「やっぱり あなたが間違えたんですね。」
英治「はっ?」
はな「私の名前 間違えて載ってたんです。」
英治「まさか…。 ほら ちゃんと安東はなさんに なってるじゃないですか。」
はな「安東花子。 はなじゃなくて花子。 私は 安東花子と書いて 送ったんです。」