花子『ええ そうです。 あの… 奥様は いつまで 東京にいらっしゃいますか?』
タミ「今日は 東京に泊まりますばい。」
花子『そうですか。 ありがとうございます。 失礼します。』
トメ「どげんしんしゃったとですか?」
タミ「どうも 出発前から おかしいち思うちょったんよ。 奥様 嘘ついちょる。 友達の赤ん坊の顔を 見に行くために 東京に行ったとやない。」
トメ「えっ?」
旅館
「失礼致します。」
蓮子「はい。」
「嘉納伝助様に おうちの方から お電話ですが。」
蓮子「私が出ます。」
蓮子「もしもし 私です。」
タミ『旦那様に 代わってくれんね? 緊急の話ばい。』
蓮子「主人は 予定どおり 高崎にたちました。」
(電話が切れる音)
<タミに感づかれたかもしれない。 だとしたら 早く ここを出なければと 蓮子は 思いました。>
(戸が開く音)
蓮子「あなた… どうなさったの?」
嘉納「高崎ん仕事は 先方の都合で 明日に延期になったき。」
蓮子「そうですか…。」
嘉納「これ 食わんか。 お前の好きな きんつばばい。」
蓮子「ありがとうございます。」
カフェー・ドミンゴ
かよ「いらっしゃいませ。 そちらへ どうぞ。」
龍一「いや あっちでいい。」
嘉納家
回想・龍一「待ち合わせは 5時に あのカフェーだ。」
嘉納「うまいか?」
蓮子「ええ…。 私 はなちゃんと 約束がありますので もうすぐ出ます。」
嘉納「俺も 一緒に はなちゃんとこに行こうかね。」
蓮子「急に 何をおっしゃるんですか。」
嘉納「お… 一緒に行ったら いかんとか。」
蓮子「いえ… でも 高崎には いつ おたちになるんですか?」
嘉納「明日の汽車で行くごとしたき はなちゃんに会いに行っても 十分余裕があると。 何なら みんなで牛鍋でも食いに行くか。」
番頭「社長。」
嘉納「何か。」
番頭「失礼します。 貴族院議員の漆原様が 社長が 東京に来とんしゃあとなら 今晩 会食をしたいち 言うておられます。」