枡谷パッチ店
糸子「はい どうぞ。」
正一「糸子!」
小原家
小原呉服店
善作「帰りよった 帰りよったな。」
正一「善作君。 話がある。」
居間
正一「そしたら 糸子が あっこで働いとんのを あんたらは『知らんかった』言うんか?」
善作「はあ… 恥ずかしい話なんやけども。」
正一「おかしな話や。 女学校まで行かせてもうとう娘が 自分から あんな狭い店で 汚いおっさんに交じって 働きたがる… 信じられんなあ。 糸子。」
糸子「はい。」
正一「お前 嘘ついとんちゃうか?」
糸子「え?」
正一「お父ちゃんら かばうために 嘘ついとうやろ?」
糸子「ついてません。」
正一「ほんまは あんなとこで 働きとうない。 そやけど お父ちゃんの稼ぎだけでは 暮らしていかれへん。 お母ちゃんと妹らに 楽させたれんのは 自分だけや。 それで しょうがないから 働きに行っとう そうちゃうんか?」
千代「お兄様。」
正一「何や?」
千代「糸子は そない けなげな子やありません。」
正一「それもそやな。」
糸子「おっちゃん。 うち お金なんか もうてません。」
正一「何?」
糸子「あっこに 置いてもらう代わりに ちょこっと 手伝うてるだけなんです。」
正一「分からんなあ。 何で そない あの店に おりたいねん?」
糸子「ミシンが あるさかい。」
正一「ミシン?」
糸子「はい。」
夜
ハル「糸子。 あんた 今日は 皿 洗わへんのんか?」
糸子「今日は 頼むわ。 お父ちゃん。 バレてしもたさかい 言うんちゃうけど うち 枡谷パッチ店で働きたい。 女学校 やめさせて下さい!」
善作「何やと?!」
ハル「やめとき!」
糸子「頼みます! 働かせて下さい!」
善作「女学校 やめるてか! パッチ屋で 働くてか! ふざけるのも 大概にせい!」
糸子「ふざけてへん! ほんまに働きたいねん!」
善作「わしが どんだけ苦労して 女学校 行かしちゃってると 思てんじゃ?!」
糸子「分かってる! 分かってるけど うち どないしても…。」
ハル「やめとき ちゅうてんや!」
善作「離せ!」
糸子「頼みます!」
善作「黙れ! 二度と ほざくな! パッチ屋なんぞ 行ってみい! 金輪際 許さんぞ!」