泉川高等女学校
教室
「小原さん どないしたん?」
糸子「…ん?」
「うちの お芋 あげよかあ?」
糸子「ううん…。 やっぱし 頂戴。」
道中
糸子「泰蔵にいちゃん お帰り。」
泰蔵「おう。 どないしたんや?」
糸子「やられてしもた お父ちゃんに。」
泰蔵「ほうけ…。」
糸子「うん。」
泰蔵「だんじり 見るか?」
糸子「…ううん。 うちな…。 うちのだんじり 見つけてん。」
泰蔵「うん?」
糸子「ミシン ちゅうねんで。 うちは… うちのだんじりに 乗っちゃるねん 絶対。」
泰蔵「よっしゃ。」
糸子「うん。」
問屋
「これとな それから それもや それと さっきの大島もや。」
「へえ おおきに!」
「ハハハハハ…。」
「毎度。」
善作「おお 毎度。」
「お待たせして すんまへんな。 もう忙しゅうて。」
善作「景気の方は どないでっか?」
「どないもこないも 例の銀行の取り付け騒ぎ以来 わやだっせ。」
「婚礼支度ゆうたら あとは まあ… これでんなあ。」
善作「いやいやいや そやさかい こんな安物やのうて もっと上物を見せてんか。 ごっつい上得意の娘さんの 嫁入り支度なんや。 寝はな なんぼ張ったかて かめへん。」
「まあ お見せするのは かましまへんけどな こっから上のもんは 掛け売りできまへんで。」
善作「えっ? 掛け売りが でけへん?」
「ええ。」
善作「そらあ どういうこっちゃね?!」
「堪忍しとくなはれ。 せやさかい ほんまに 景気が わやゆう事でんねん。 例の金融恐慌のあおりで うっとこも ようけ踏み倒されましてな これまでのゆな のんきな商売はやってられんように なってまんのや。」
小原家
玄関前
「気ぃ付けてな~!」
木之元「おう 毎度 ハハハハ!」
善作「お前 何してんや?」
木之元「え? 見てのとおりや 店の改装や。」
善作「今度は 何屋やったかいな?」
木之元「えっ? 電気屋や。」
善作「電気?」
木之元「見ててみい ごっつい 繁盛させたるさかい。 もう大金持ちになってなあ 今度こそ 嫁もろうちゃんで~! アハハハ ハハハ!」
善作「ええな お前…。」
木之元「えっ 何がよ?」
善作「気楽で。」
木之元「気楽な事ないで! 金ない 嫁おらん 人生 真っ暗じょ。 アハハハ ハハハハハ!」
善作「うらやましなあ。 ほなな…。」
木之元「買うてやあ!」