賀茂川
錠一郎「いや ちょっ ちょっ ちょっ… ちょっと やめて やめて やめて…。 やめて。」
るい「怖くないから。 前見て。」
錠一郎「怖い 怖い 怖い…。」
るい「前。」
錠一郎「危ない 危ない 危ない…。」
るい「大丈夫。」
錠一郎「ちょっと お… 押さんといてって。」
るい「大丈夫。」
錠一郎「怖い 怖い 怖い 怖い 怖い…。」
るい「顔上げて こぎ続けとったら 前へ進むから。」
錠一郎「いや いや いや…。」
るい「ほれ~!」
錠一郎「いやいや… ちょっと押さんといて…。」
(子供たちの笑い声)
「おっちゃん これやで!」
錠一郎「え~。」
大月家
回転焼き屋・大月
森岡「ああ 開いた開いた。」
るい「あっ 酒屋さん。 おいでやす。」
森岡「1つ くれるか。」
るい「あっ はい。 すぐ焼きます。」
森岡「ご主人は?」
るい「賀茂川です。」
森岡「ええ!? 嫁はん一人働かせて 自分は散歩か?」
るい「いや なお そういうことやなしに…。」
森岡「はあ… 余計なお世話かもしれへんけど 仕事もせんと あっこの旦那さんは どないなってんねやろ あれでは 嫁さんの体もたへんでって みんな心配してんで。」
賀茂川
錠一郎「ああ ああ ああ… おおっ おおっ おおっ…。」
「大丈夫か? あっ…。」
錠一郎「おお…。」
あきお「おっちゃん。」
錠一郎「えっ?」
あきお「一向に うまくならへんな。」
「明日も特訓や。」
錠一郎「面目ない…。 おおっ おおっ…。」
「あきお~!」
あきお「あっ お父ちゃん!」
「あきお!」
あきお「お帰り!」
「お~い。」
あきお「じゃあ 帰ろ。 バイバ~イ。」
大月家
居間
<るいは いつか錠一郎の病気の治療法が 見つかった日のために 貯金をしていました>
るい「あっ まだ起きてたん?」
錠一郎「うん。」
るい「いいよ。 もう 先寝てて。」
錠一郎「後悔してる? 何にもできひん僕と一緒になって。」
るい「そないなこと もういっぺんでも言うてみ。 すぐ離婚やで。」
荒物屋・あかにし
ラジオ・磯村『さて 皆さん。 先頃 惜しまれながら逝去しました モモケンこと 桃山剣之介について 新しいニュースが飛び込んできました。 なんと 息子の団五郎が 来春 二代目 桃山剣之介を 襲名するんだそうです。 方や モモケンは 銀幕の時代劇スター。 方や 団五郎は テレビ俳優です。 さあ その名跡に ふさわしい活躍が できるのかどうか… いや 是非 そうなってほしい…』。
清子「こっちは木箱。」
るい「あ…。」
清子「こっちは紙や。」
るい「ああ…。 この箱やったら 200個いっぺんに入るやろか。」
清子「うちも近いうち 結婚式のデザート頼めたらいいんやけど。」
るい「(小声で)『あ… 息子さん いい人できたんですか?』」
清子「(小声で)『どやろ。 吉右衛門次第やね。』
初美「こんにちは。 たわし1つ ください。」
吉右衛門「は… 初美ちゃん。 いらっしゃい。」
初美「フフフフッ。」
吉右衛門「はい。」
初美「フフフッ おおきに。」
るい「こんにちは。」
初美「ああ こんにちは。 どないですか? ご主人。 自転車乗れるようにならはりました?」
るい「いえ まだ…。」
初美「あ~…。」
清子「あっ! 大月さん。 大丈夫ですか?」
賀茂川
吉右衛門「大月さ~ん! えらいこっちゃ! 奥さんが倒れて…!」
錠一郎「ちょ… ちょっとごめん! あっ…! おっ おっ…。」
あきお「乗れてるやん…。」