(優の声)
坂場「うん?」
なつ「うん…。」
(優の声)
坂場「ああ… よいしょ。」
(優の声)
坂場「はい はいはい…。」
(ブザー)
なつ「あっ。」
坂場「誰か来た。 よいしょ… 優。」
なつ「はい。」
坂場「はい。 は~い。」
玄関
(戸が開く音)
坂場「あ こんばんは。 どうぞ。」
麻子「お邪魔します。」
リビング
なつ「あ… マコさん!」
麻子「こんばんは。 まあ 優ちゃん! 大きくなったわね ハハハハ…。」
なつ「マコおばさん 覚えてる?」
麻子「おばは いらないでしょ おばは。」
なつ「あ… マコさん。 すいません。」
麻子「マコちゃんって呼んでね。 預け先が見つからないんだって?」
なつ「えっ?」
麻子「昼間 イッキュウさんから電話もらったの。 預け先が見つかるまでは 入社を待ってくれって。」
なつ「そうなの?」
坂場「しかたないだろ。 どうぞ。」
麻子「もう こうなったら 私も 一緒に考えるしかないでしょ。」
なつ「マコさん…。」
麻子「私のためでもあるでしょ。」
なつ「本当に すいません。」
麻子「あなたが肩身の狭い思いをする必要なんて これっぽっちもないの! そんなんじゃ戦っていけないわよ。 優ちゃんも自分も守っていかなきゃ しょうがないでしょ。」
なつ「はい…。」
麻子「バカ 泣いてんじゃないよ。 どうしたの?」
なつ「いや すいません…。 マコさんに会うと 何か ほっとして。」
麻子「それで 今は 何が一番必要なの?」
坂場「もう行政には頼れないので 無認可の保育園か 個人で保育を引き受けてくれる人を 探すしかないんです。」
なつ「そのビラを 今 描いてたところなんです。 これ。」
麻子「これ どうするの?」
坂場「近所の電信柱や 掲示板に貼るんです。」
麻子「よし。 あと何枚 必要なの?」
なつ「とりあえずは 10枚は。」
坂場「うん…。」
麻子「私も手伝う。 優ちゃんに会いたくなるような絵を 描けばいいんでしょ? ハハハハハ…。」
なつ「マコさん… ありがとうございます!」
坂場「すいません。」
麻子「ペンと紙を下さい。」
坂場「あ… じゃ ここで。」
麻子「はい。」
麻子「なっちゃんは今 どんな仕事してるの?」
なつ「今度 作画監督を 引き受けることになったんです。」
麻子「作画監督? 引き受けたの?」
なつ「はい。 それで どうしても このビラが必要なんです。」
麻子「それじゃ 本当にいい人を 見つけないと ダメじゃないの。」
なつ「はい…。」
麻子「それで どんな作品?」
なつ「マコさんの好みじゃないと思います。 これなんですけど。」
麻子「『キックジャガー』やるの?」
なつ「知ってますか?」
麻子「私も読んでるわよ。 そうか 東洋動画で決まったのか。 チクショー。」
なつ「チクショー?」
坂場「どんな話?」
なつ「キックボクシングの話。」
麻子「知らない?」
坂場「うん…。」
麻子「あの 実際にいる 沢村 忠みたいなスター選手がいて タイから 一人の刺客が送り込まれてくる。 それが ジャガーの覆面をつけた キックジャガーなの。 キックジャガーは反則業でも 何でも使うんだけど それは 悪徳プロモーターが仕組んだ 八百長だった。」