なつ「ちょっと もう一回お願いします。」
神地「オッケー。 いくよ。」
(卵が焼ける音)
なつ「卵が 殻から とろりと落ちて 落ちたあとも 黄身を中心に 跳ねるような揺れ 細かく入れてみたんだけど…。」
神地「落下直後のトュルントュルンな感じは 出てるよ。 でも さっきから観察してるとさ 動きも大事なんだけど 色の変化が重要なんだよね。 白身が 透明から白くなっていって ふちの方が かたくなって こんがり焦げてく漢字が 食欲を そそるんだよな。」
なつ「それは そうだけど それは 線画じゃ表現できないでしょ。」
神地「てことは やっぱり色だよね。 モモッチ 色見本!」
桃代「はい!」
麻子「色?」
神地「あ… 色も 同時に考えるんです。」
桃代「何の色?」
なつ「目玉焼きを作るシーンだけど モモッチの力を貸してほしいの。」
桃代「うん。」
神地「フライパンに落ちた卵が 目玉焼きに変わっていく瞬間の色を 細かく表現したいんだ。」
桃代「分かった。 じゃ もう一回 焼いてもらっていい?」
神地「お安い御用だよ。」
茜「あ~ それにしても いい匂い。 さっきから おなか すいちゃうわね。」
下山「ね ハハハ… そろそろ お昼だしね。」
茜 下山「はあ…。」
なつ「あ… それだ! それが足りなかったんだ。 匂いの表現です。 ソラとレイが 卵が焼き上がるのを待つ間に 匂いを吸い込む動作を加えたら どうでしょうか?」
坂場「それは いいかもしれません。 テレビを見ている子どもたちにも 一緒に 匂いを感じてもらえるようにしましょう。」
なつ「はい やってみます。」
神地「あ… みんな 目玉焼き食べて。」
下山「え… 何かない? しょうゆとか。」
石沢「あ しょうゆ しょうゆ しょうゆ…。」
<それから 3週間後。>
玄関
麻子「開けて!」
石沢「あ~ はい はい…。」
麻子「これ見てよ! これ!」
下山「おっ?」
麻子「よいしょ。」
坂場「視聴者から?」
麻子「そう! 子どもからも親からも どんどん増えてるって。 特に反響があったのが あの卵を焼くシーンよ!」
なつ「えっ?」
麻子「あれを見て みんな 子どもたちが 卵を食べたがったって書いてある!」
なつ「本当ですか!」
麻子「本当よ。」
(卵が焼ける音)
ソラ レイ『うわ~ いい匂い! はあ…。』