富士子「夕見子がね 大学に行きたいんだって。」
なつ「大学に?」
富士子「そう。 それも 札幌の北大 受けたいんだって。」
なつ「北大? すごい! 夕見は 頭いいからね 昔から 本ばっかり読んでるし。 博士になるのかな? ハハハ…。」
富士子「別に 何になりたいわけじゃなくて 自由になりたいんだって。」
なつ「へえ~… 今でも 十分 自由にしてんのにね。 夕見らしいわ。 母さん 寂しいの? 私がいるしょ。」
富士子「夕見子にね 言われちゃったのよ。」
なつ「何て?」
富士子「土地に縛るのは なつだけにしてって。 そんな気ないからね… いいんだよ。」
なつ「いいって 何が?」
富士子「もしも… もしもよ いざという時には 私のことは 無理に 母親だと思わなくていいからね。 おばさんだと思えばいいのよ。 ほら 9年間も一緒に過ごした おばさんだと思えば 逆に 家族と同じだって思えるしょ?」
富士子「どんなことがあっても なつのことは応援してるし いつでも 味方になってくれる人だと そんなふうに思ってくれたら 私は それで…。」
富士子「えっ? どした? なつ どしたの?」
なつ「どして… そんなこと言うの? したから 東京に連れてきてくれたの? 私を お兄ちゃんに返そうとしたの?」
富士子「違うわよ!」
なつ「やだ! やだよ… 私から 母さんを取らないでよ…。 母さんを取らないでや…。 やだよ…。」
富士子「ごめん…。 そんなつもりで言ったんじゃないんだよ。 ごめん なつ…。 ごめん…。」
雪月
雪之助「はい お待たせしました。」
雪次郎「来た!」
雪之助「え~ 新作のかき氷です。」
夕見子「う~わ~!」
雪之助「氷ん中に 何 入ってると思う?」
夕見子「氷ん中に?」
雪之助「パイナップル!」
雪次郎「うん。」
雪之助「パイナップルを忍ばせて 上に 何かかってると思う? 香り豊かなリンゴのシロップ!」
雪次郎「ハハハ…。」
雪之助「商品名 何だと思う? 雪月の夏!」
(拍手)
夕見子「全部言うのに 何で聞くのさ。 雪の夏って 矛盾してるけどね。」
雪之助「いや そこがいいんだ。 雪の中に パイナップルの月 夏の風物詩 雪月の夏!」
雪次郎「よよっ!」
夕見子「とけるんで 頂きま~す。」
雪之助「はいはい どうぞ。」
夕見子「うん パイナップル!」
雪之助「フフフフ…。」
雪次郎「俺も 北大受けるかな。」
雪之助「北大? お前の成績と… 矛盾してるな。」
雪次郎「じゃ 札幌でお菓子の修業するさ。」
雪之助「いや ダメだ。 お前の修業先は 東京って決まってんだから。」
夕見子「えっ 東京行くの? 雪次郎。」
雪次郎「そうしろって言うんだ。」
雪之助「私が 修業してた店にね まあ 雪次郎にも行ってほしくてね。」