なつ「何だべ…。 油断大敵…。」
陽平「なっちゃん!」
なつ「あ 陽平さん。」
陽平「どう? 順調?」
なつ「はい…。 とにかく もう やるしかないしょ!」
陽平「天陽も やったよ。」
なつ「えっ?」
陽平「天陽が 帯広の展覧会に絵を出品して 賞をもらったって。」
なつ「ええっ!」
十勝美術展
(拍手)
天陽「え~ ありがとうございます。 山田天陽です。 え~ 僕は 絵を描きながら 畑を耕し ジャガイモを作ったり そばを作ったりしています。 え~ 牛飼いもして 牛乳も売っています。 今日も早く帰って 搾乳をしなくちゃなりません。」
(笑い声)
天陽「え~ 生きるために 必要なことをやっています。 絵を描くことも おんなじです。 ただ 畑を作る作物や牛乳は その時々で 値段が違います。 それを 受け入れなくちゃなりません。」
天陽「でも… 僕の絵だけは 何も変わらないつもりです。 これからも 社会の価値観とは全く関係ない ただの絵を 描いていきたいと思っています。 え~ 本日は ありがとうございました。」
(拍手)
なつ<天陽君 おめでとう。 私もうれしいです。 やっぱり 受賞したのは 馬の絵だと聞きました。 天陽君が ベニヤに描いた馬の絵 それは 今の私にとっても 大きな憧れ 大きな目標になっています>
山田家
居間
タミ「なっちゃんから手紙来てたわ。」
天陽「ん? そう。」
タミ「読まねえの?」
天陽「うん 後でいい。」
正治「なっちゃん 正月も帰らんのかな。」
タミ「漫画映画の仕事が忙しいから 陽平も帰れんて 今年も また。」
正治「俺たちが東京行くか 3人で。」
天陽「牛を連れていけねえべ。 一日でも うちを空けんのは無理だ。」
正治「そりゃそうだわ。」
タミ「もう 私たちは ここから動けんのよ。 分かってる? 天陽。」
天陽「分かってるって…。」
タミ「牛のことじゃなくて なっちゃんのこと。」
天陽「ん?」
タミ「十勝に戻らない覚悟をして なっちゃんは行ったんでないの。 あんたの気持ちも分かっていながら 捨てたんでしょや。」
正治「おい…。」
タミ「それなのに あんたが 一人で待つことないからね。」
天陽「待ってねえべ…。」
タミ「本当かい?」
天陽「そんな心配すんなや。」
正治「だったら お前も早く見つけろ。」
天陽「えっ?」
正治「この土地で 絵を描くにしても 一人で生きていく覚悟はできねえべ。 それは つらすぎる。 俺や母さんは お前らがいたから なんとか やってこられたんだ。 お前も 早く お前の家族を作れ。 母さんが言いたいのは そういうことだべ。」
タミ「天陽 なっちゃんのことは もう忘れてちょうだい。」