はな「おかあ ただいま。 おばさん こんちは。」
リン「こんちは。」
ふじ「はな。 おまん 隠してるこん あるら。」
はな「えっ?」
ふじ「ずぶぬれになって 帰ってきた時のこんだよ。」
はな「おら…。」
吉平「さあ 牧師様 どうぞ! どうぞ。」
森「こんにちは。 やあ はなちゃん。」
回想
森「お前は 友達を置いて 逃げた ひきょう者だ!」
<はなは パニックに陥っていました。 こらから みんなの前で 牧師様に お仕置きされるのでしょうか。>
森「へえ… これ 本当に君が? 7歳の女の子が これを詠んだとは…。」
吉平「やっぱし 牧師様も ほう思うでしょ? 私は これを見て 心に決めたです。 この子は 神童じゃ。 一日も早く こんな田舎じゃなくて 東京の女学校に行くべきじゃと!」
ふじ「あんた…。」
吉平「うちのもんたちは みんな 学問の大事さが これっぽっちも分かっとらんのです。 学のある牧師様から みんなを説得してほしんじゃ。 どうか お願えします!」
はな「おとう! ほの事は もういいって。」
吉平「いいから はなは 黙ってろし。」
森「本気ですか? お父さんは 本気で 修和女学校の寄宿舎に お嬢さんを入れたいと。」
吉平「はい。 本気です。」
森「そうですか…。」
吉平「お願えします。 娘の将来が懸かってるだ。」
森「では はっきり言わせてもらいます。 私は 反対です。」
吉平「てっ! 反対?」
森「あの女学校に お嬢さんを入れるのは いくら何でも無理がある。」
吉平「無理?」
森「あそこの生徒は 華族や富豪のお嬢様ばかりです。 いくら はなさんが優秀で 学費免除の給費生として 入学できたとしても 華やかなお友達と うまくやっていけるでしょうか。 生まれも育ちもあまりにも かけ離れている。 お嬢さんが つらい思いを するのではないでしょうか。」
吉平「ほんな… 牧師様 おっしゃったじゃねえですか! 神様の前では 金持ちも貧乏人もねえ。 みんな平等だって。」
森「そうです。 しかし また 金持ちと貧乏人が いるのも 厳然たる事実です。」
リン「この際だから こぴっと婿に言ってやれし。」
周造「そうさな。 わしの目の黒いうちは はなを東京の女学校へなんか 絶対に行かせん!」
リン「よしよし! よく言ったじゃんけ!」
武「小作のはなが 華族の女学校なんか 行ける訳ねえら。」
夜
周造「わしゃ もう寝る。」
ふじ「おやすみなって。」
はな「おやすみなって。」
周造「ああ おやすみ。」
はな「おかあ。 おら ずっと黙ってて ごめんなさい。 嘘ついて ごめんなさい。 おら 奉公行く日の前の晩 朝市と教会行っただよ。 教会の人に見つかって 朝市は 捕まって おらは 逃げて帰ってきたけんど 罰が当たったさ。 明日 牧師さんに謝ってくる。」
ふじ「こぴっと謝ってくるだよ。 はな。 ほかにも 嘘ついてねえけ?」
はな「えっ?」
ふじ「おまん 本当は 本が いっちょ好きだよね。 女学校行って 好きな本を いっぺえ読みてえじゃねえだけ?」
はな「本なんか嫌えだし 華族のお嬢様の行く女学校なんか ちっとも行きたくねえ。」
ふじ「本当け? おかあは 字ぃ読めんから ここに何が書えてあるだか さっぱり分からん。 ふんだけんど はなが これを読むと 幸せでいっぱいの気持ちに なる事だきゃあ分かるだよ。 おまんの顔が キラキラするだ。」
回想
はな「てっ! 本じゃん! 本物の本じゃんけ! おら 初めて本に触った。 夢みてえじゃん!」
はな「『ち… い… さ… か…』。
回想終了