一風館
容子「初めて ツアーのコーディネートを 企画から 任されて で『何の事故もなく ツアーが終わって』って『もう解散しました』って 成田から 電話もらった時かな。 ああ これで 私も 一人前だなああって思ったの。」
恵里「へ~え。」
容子「心配で 心配で 寝られなくて だから 成田から 電話が かかった時は 涙出てきてさ 会社で 跳びはねたなぁ!」
恵里「そうなんだ。 あ 柴田さんは?」
柴田「僕ですか?」
容子「まだ ないの?」
柴田「はい。 そんなこと ないですよ。 何言ってんですか。 僕の場合は チョット 今の会社に入ったの 不本意だったんですよね。 行きたい会社に入れなかったから。」
容子「そうなんだ。」
柴田「何年か たって ある日ですよ 居酒屋で 学生時代の友達と 飲んでたんですよ。 最初のうちは 愚痴っぽいこと言っていたけど いつのまにか 会社の自慢 してたんですよ。]
柴田「『すごいんだ うちの製品は』って。 その時 ふっと思ったんですよ。 ああ 俺は この仕事 好きになってるのかぁって。 その時かなぁ…。」
恵里「へえ いいお話ですね。」
柴田「ありがとう。 あ 島田さんは? お医者さんだったんだから 一番 恵里さんの参考になる…。」
島田「そもそも 医者なんて職業はね もう 最初から 一人前じゃないと 困るわけ。 半人前で 患者を診るんじゃ 患者はたまったもんじゃないしね。」
恵里「あ そっか そうですよね。」
島田「でも まあ あれだね 個人的には やっぱり あるなあ。 自分で手術をした患者のさ きれいになった レントゲン写真を 見た時には『ああ これで 俺も 一人前の 外科医だな』って 思ったな。」
恵里「へ~え。」
祥子「なんか 分かるなあ。」
恵里「うん。」
容子「みづえさんは どうなの?」
みづえ「そう… ここに下宿してた 学生さんがね ある日 夜遅く 私の部屋に来て 何 話したか 覚えてないけど 田舎の家族の事とか 将来の夢とか 不安とか 好きな女の子の事とかね しゃべっていったの 私は 黙って聞いてたんど]
みづえ「その子が 帰り際に『また 話にきても いいですか』と 言ってくれたの。『東京のお母さんみたいなのもんだから』って…。 フフフ 私 それが うれしくてねえ。」
恵里「皆さん あるんですね それぞれの一人前が…。 私たちの一人前は どんな時かな。」
祥子「う~ん。」
恵達「あれ?」
恵里「ん?」
恵達「終わり? 姉え姉え 何で 俺には 聞かないの? 何で?」
恵里「何でって だって あんた まだ 半人前さ。 なってないでしょ 一人前には。」
恵達「あ そう。」
みづえ「さあさあ 頂きましょうよ。 皆 それぞれに 取って下さい。」
容子「頂きま~す。」
恵里は 胸を高鳴らせていました。 一風館の人たちのように 自分が 一人前になる時には どんなことが あるんだろう。 そう思って ワクワクしていました
恵里「一人前か…。」