辻内家
玄関前
恵理「こんにちは! 北栄総合病院の上村です! こんにちは! こんにちは…?」
玄関
恵理「(ノック)こんにちは!」
美帆子「愛子… どうして 分かってくれないの?」
リビング
愛子「やだ! ずっと 家に居る 学校なんて 行かない」
美帆子「愛子!」
愛子「だって 居たいんだもん お母さんと居たいんだもん どうして いけないの?」
美帆子「いけないの あなたは 小学生なんだよ 学校に行く義務があるの 学校に行って 勉強したり 友達つくったり 遊んだり それに 友達との事で 悩んだり 恋をしたり クラブ活動したり たくさん たくさん やることがあるの」
愛子「いやだ」
美帆子「『いやだ』じゃない」
愛子「いやなの」
美帆子「お母さんの事 心配してくれるのは うれしいよ ありがとう でもね 愛子…」
愛子「いやだ!」
美帆子「お願い お母さんの お願い!」
愛子「いや!」
美帆子「愛子!」
愛子「お母さんのバカ!」
玄関
美帆子「恵理ちゃん…」
恵理「どうも」
美帆子「まいった…」
リビング
美帆子「よかったら お茶 どうぞ」
恵理「あ… ありがとうございます」
美帆子「それ 何?」
恵理「え? あ… あの~ これ いつか 話した 一風館に住んでる…」
美帆子「あぁ メルヘン作家さん?」
恵理「はい 真理亜さんって いうんですけど 書いた本… 愛子ちゃん 読むかなと思って…」
美帆子「ありがとう」
恵理「あ いえ」
美帆子「あの子ね」
恵理「はい」
美帆子「私が そんなに長く生きられないの 分かってるの」
恵理「え?」
美帆子「分かってるの あの子 だから 私と 一緒に居たいのよね 一時も 私から 離れたくないのよね かわいそうに… 小さい時 パパに死なれて 今度は 私まで いなくなっちゃうなんて… かわいそう… 恵理ちゃん」
恵理「はい」
美帆子「なんで 人は 病気になるんだろうね」
美帆子「間違ってると思うな 神様 私を思い病気にするなんんて… 間違ってると思うな あの子を独りにするなんて… 間違ってる 間違ってる ごめん 泣き言 言っちゃって 病気についての覚悟は もう 出来てるんだ」
美帆子「治らないことも 分かったし だから 自宅に帰って 恵理ちゃんたちの 訪問看護を お願いしたの 愛子のためなのね 入院してると 病院にばっかり来て あの子… だから うちに戻ったら せめて 学校だけは ちゃんと 行ってくれるかなと思って… 子供らしい生活してほしくて… でも すぐ 戻ってきちゃうの 責められないの そんなに…」
美帆子「でも このままじゃ 駄目 あの子 駄目になっちゃう」
美帆子「私が いなくなって 独りになる その運命から 逃れられないのなら その後も ちゃんと生きていける子になってほしいの 私がいなくなった後も ちゃんと強く生きられる子になってほしい でも… どうしたら いいか わからないんだ わからない あ… ごめん 長話しちゃった」
恵理「いえ」
美帆子「仕事の邪魔だよね」
恵理「いえ 大丈夫です 大丈夫です あ じゃ 血圧から 測りましょうか?」
美帆子「はい」