黒川家
種市「何か しゃべれよ。」
アキ「ああ はい。 えっと じゃあ 仕事どうですか?」
種市「『じゃあ』って。」
アキ「すいません。 雑談って難しいですね。」
種市「だんだん おもしれぐなってきた。 最初は 大将 無口だし 掃除と 出前ばっかりだったけど 最近ようやく 卵焼き 任されるようになって。」
アキ「卵焼きかあ!」
種市「ただの卵焼きでねえど。 卵溶いで 鉄の鍋さ流し込んで こう 火から浮かせてよ 自分で火加減調整しながら 45分。」
アキ「45分!?」
種市「時間かけて作るから うめんだ。」
アキ「へえ~!」
種市「次は シャリ作り教えてもらって いよいよ板場の修業だ。 自分なりに 目標も出来た。」
アキ「何ですか?」
種市「いつか 北三陸さ帰って 小せえ店 構えるんだ。 三陸の新鮮な魚ど 内陸の米ど あと 地酒が自慢の店。」
アキ「いいなあ!」
種市「名付けて ダイバーずし。」
アキ「名前は もうちょっと考えた方が いいな。」
種市「え? あ そうか? フフ! 何か懐かしいな。」
アキ「え?」
種市「前にも こんな感じで 2人でしゃべった事あったべ。」
アキ「ああ 北鉄の倉庫で。」
種市「うん。」
回想
種市「『潮騒』って三島由紀夫だべ?」
アキ「え?」
種市「三島の恋愛小説で 映画化もされた名作だ。『その火を飛び越えてこい』って いうのは その中のセリフだ。 そのあと 2人は抱き合うんだ。」
(携帯の着信)
回想終了
種市「いぎなり電話鳴って もう びっくりしたな。」
アキ「あん時 先輩は ユイちゃんが 好きだったんですよね。」
種市「ごめん。」
アキ「いやいや 責めてる訳でなくて。」
種市「今は違う。 天野が好ぎだ。」
アキ「おらもだ 先輩。」
種市「『先輩』って。」
アキ「『天野』って。」
種市「アキ。」
種市「どした?」
<なすて? なすて先輩ど いい感じの時に ママの幽霊が? いやいや幽霊じゃねえ ママ生きてるし 実家さいるし じゃ何?>
(電話の呼び鈴)
アキ「もしもし?」