黒川家
種市「ここが 事務所?」
アキ「んだ! あっちが おらの部屋。」
種市「ふ~ん。 生まれた時から ここに?」
アキ「いや おらが8歳の時 パパが ローン組んで 買ったそうです。」
種市「へえ~!」
アキ「その前は団地です。 何か飲みますか?」
種市「ああ じゃ ビール。」
アキ「じぇ! そうか 先輩もう二十歳か。」
種市「あ その前に シャワー借りていいか?」
アキ「じぇじぇ!」
種市「あ ごめん! あの ずうずうしいよな。 あの最近 卵ずっと 焼いてるからさ 汗かくんだよ。 シャワー浴びねえと 気持ち悪くて。」
アキ「どうぞ!」
種市「あ いいのか? じゃ 借りるわ。」
アキ「タオル 出しておきますんで。 着替えは?」
種市「あ 持ってる。」
<うわ~ うわ~ 先輩! いきなり お風呂って もしかして 先輩… うわ~ もう『うわ~』しか 出てこねえ>
(電話の呼び鈴)
アキ「もしもし。」
電話・春子『ママだけど。」
アキ「うわ~!」
天野家
春子「『うわ~』って? 元気?」
電話・アキ『な… な 何の用だ?』
春子「あんたに用じゃないよ。 事務所の留守電 聞こうと思っただけ。」
黒川家
アキ「じゃ 出なきゃよかったのか?」
天野家
春子「もう遅いけどね。 で… どうだったの? 2次審査。」
黒川家
アキ「う~んまあまあかな。」
(風呂の扉が開く音)
アキ「じぇじぇ!」
種市「あ! ごめん。 どっちがシャンプーで どっちがリンスかな?」
アキ「泡が出ない方が リンスだ。」
種市「あ…。」
アキ「もしもし!」
天野家
春子「誰かいるの?」
黒川家
アキ「あ うん 水口さん。」
天野家
春子「ああ そう。 遅くまで 御苦労さま~!」
黒川家
アキ「『御苦労さま~』だって。」
電話・春子『じゃあね おやすみ!」
アキ「(ため息)」
黒川家
回想
夏「あ~!」
回想終了
<この家で 一人で暮らしている 夏ばっぱの姿を なぜかママは 想像しました>
春子♬『星よりひそかに 雨よりやさしく』
<来る者は拒まず 去る者は追わず 強がって生きてきた 母の日常。『もう一度 夏さんに この風景を 見せてあげなくちゃ』。 そう心に誓うママなのでした。 まさか娘が 部屋に男を 連れ込んでいるとは知らず>