<その夜 夫の慰労会が開かれました。 急きょ スナックは休みにしましたが スナックの客のほとんどが 家に来ました>
夏「おらと組合長が不倫だとや。」
弥生「いやいや おらでなくて 勉さんが言いだしたんだ。」
勉「毎日おしゃれして 漁協さ来てましたよね。」
長内「ハハハハッ 残念ながら それは濡れ衣だべな。 遠洋の船が着く 着かねえの連絡は まず無線で漁協さ入るからな。」
回想
夏「組合長 まだ連絡ない?」
長内「ないない ないない。」
夏「はあ もう… 絵葉書には 八戸さ 5日に着ぐって 書いでだのに~。」
長内「心配しなくても 無線入ったら 電話するすけえ。」
夏「いろいろ準備あるのよ。 美容院さ行ったり…。」
夏「じゃあね 勉さん! ハブ ア ナイス デー! ヘッヘッヘッヘッ。」
回想終了
忠兵衛「へえ この野郎 この! おめえは黙って 琥珀でも磨いてろ!」
(笑い声)
かつ枝「まっ 正確には不倫ではねえべ。 おらたち 今 結婚はしてねえからな。」
長内「んだな!」
(笑い声)
長内「夏さんさえ その気なら…。」
忠兵衛「何だと この…!」
長内「冗談だじゃ! 冗談!」
忠兵衛「表出ろじゃ こら!」
長内「冗談 冗談 いや~ ハッハッハッ!」
大吉「誰も忠兵衛さんには かなわねえべな!」
(笑い声)
大吉「ふう~! どうだい 春ちゃん これで納得いったか?」
春子「いかない! 無理! てんで 納得できない!」
忠兵衛「相変わらす 面倒くせえな 春子は。 ところで 旦那は どこだ?」
春子「…旦那?」
忠兵衛「孫が いたって事は おめえ 旦那もいたべ。 挨拶さ来ねえっつうのは どういう了見だ!?」
春子「別れました。 東京行って 結婚して 娘を産んで 別れて 帰ってきました。」
忠兵衛「あっ そう。」
春子「『あっ そう』って…。」
忠兵衛「そろそろ 焼酎にすんべ。」
春子「ちょっと待ってよ 何それ…。」
忠兵衛「人生いろいろあるさ。」
春子「はあ!?」
夏「薄め? 濃いめ?」
忠兵衛「濃いめで。 まあ 頑張れや。」
春子「焼酎の薄めと濃いめの間で 慰めないでよ。 そんな 単純な話じゃないじゃないよ!」
忠兵衛「陸(おか)の上の事は天野家では 全て かあちゃん任せだ。 一年のうち 350日は 海の上だすけなあ。」
アキ「そんなに?」
長内「んだ! 延縄漁は 一年中 帰ってこねえのは当たり前だ。」
<延縄漁とは 長さ100kmもある縄に のれん上に 釣り針を垂らした 仕掛けで マグロを釣る 伝統的な療法です。 冷凍技術にお向上により 1年以上に及ぶ航海も可能に…>
春子「納得いきません!」
アキ「ねえ おじいちゃん おらも潜水土木科なんだよ。」
忠兵衛「じぇじぇ! 北高のか? したら おらの後輩でねえか。『南部ダイバー』歌うか!」
長内「待ってました!」
♬『白い鴎か 波しぶき』
長内「それそれ!」
♬『若い血潮が』
長内「それ!」
春子「アキ! あんた ユイちゃんと一緒に 2回行ってなさい!」
アキ「えっ 何で?」
春子「じいちゃんと ばあちゃんと 納得いくまで話し合うからよ!」