居間
春子「誰と? 組合長と?」
夏「組合長!? 長内さんと おらが? ハッハッハッハッ!」
春子「笑い声じゃないでしょ!? あんた いくつよ? 64でしょ? しかも お父さん死んで まだ1年しか たってないんでしょ? 何 笑って…。」
忠兵衛「ただいま~!」
春子「お帰り! …っていうか『ただいま』?」
夏「やんだ 忠さん 帰ってきちゃった。」
春子「え?」
忠兵衛「お~ 夏ちゃん 会いでかった~。」
夏「言ってくれりゃ 駅まで迎えに行ったのに~。」
忠兵衛「びっくりさせでえと思って! ハハハハハッ! ほれ ハグ ハグ!」
夏「忠さん 忠さん 忠さん!」
2人「お~!」
忠兵衛「おっ?」
夏「あっ 春子がね 帰ってきたんだ。」
忠兵衛「何だ そうかい! どっかで見た顔だなと思ったら おめえ 春子かい?」
春子「あ… こっちです。」
忠兵衛「うん? おめえが? 年取ったなあ。」
夏「出てった時は 高校生だもの。」
2人「アハハハハッ!」
忠兵衛「いくつになった? 春子! 30か?」
春子「いいえ もうちょっと…。」
忠兵衛「50か?」
<お騒がせして すいません。 我が家の主 天野忠兵衛は 実は生きていたのです。 アハハッ びっくりした?>
春子「…したわよ! ちゃんと説明しなさいよ。」
夏「おめえが 勝手に死んだと 思い込んだんだべ。」
春子「仏壇に写真飾ってあったら 誰だって 死んだって思うでしょ!?」
夏「思うのは勝手だが おら ひと言も 死んだなんて言ってねえからな。」
長内「忠兵衛さん 帰ってきたってか!?」
忠兵衛「あ~ 組合長!」
長内「忠兵衛さん!」
かつ枝「いや~ いがった! 今年は 随分 遅えなって 心配してたんだ~。」
アキ「何で? なして おじいちゃん 生きてんの?」
忠兵衛「死んでねえからだ。」
長内「死んだ!? 誰が? 忠兵衛さんが?」
かつ枝「バカこの アキ! 縁起でもねえ事 語んな!」
アキ「でも『いつ死んだの?』って 聞いたら ばっぱ『去年』って言ったべ?」
夏「毎年 そういう覚悟で 送り出してんだ。」
忠兵衛「『俺の事は 死んだと思え』って 毎年 そう言って 船さ乗んのさ。」
夏「漁師の家さ嫁いだ 女の宿命さ。」
春子「いやいや 納得いかない!」
弥生「忠兵衛さん お帰り~!」
忠兵衛「弥生ちゃ~ん!」
かつ枝「危ねえ 危ねえ こら!」
今野「皆さん こんな集まって 夏さん この度は さっぱり分かんね…。 生きてる!」
忠兵衛「当たりめえだ!」
春子「大吉さん! よくも だましてくれたわね。」
大吉「だ… だましてはいねえ。 黙ってただけだ。」
春子「黙ってた?」
大吉「最初は そんな訳ねえって思ったさ。 だけど そのあとも 春ちゃん『死んだ 死んだ』って あんまり 春ちゃんが死んだって 言うから ちょっとしたら 生きてるっていうのは 俺の思い込みで 死んだのかなって…。」
弥生「その割には 葬式出した覚えもねえなって。」
大吉「もはや 俺の中では半分ぐらい 死んだ事になってたっぺ。」
忠兵衛「半殺しか!? この野郎!」
弥生「おらも 人に聞かれた時『どうも死んだらしい』って 答えてた!」
今野「何だよ おらなんか 何の疑いもなく 喪服着てまっだ!」
(笑い声)
かつ枝「それ やりすぎだべ!」
大吉「まあ 生きでて 何よりだな。」
(笑い声)
春子「全然 笑うところじゃない! 全然 納得いかない!」
ユイ「アキちゃん…。」
アキ「あっ ユイちゃん!」
夏「ユイちゃん ウニ丼 売れたか?」
ユイ「あっ 全部 売れました。 大丈夫?」
アキ「うん。 あのね おじいちゃん生きてたの。」