灯台
天野家
春子「嫌な予感してたのよ。 吉田君に借りた 映画のビデオ。」
大吉「『潮騒のメモリー』な。」
春子「私が寝てから 毎晩見てたの ここで。 夜中の 2時 3時まで 時々はさ こう… 巻き戻して セリフ復唱したりしながら。」
夏「おらも見た。」
一同「じぇじぇ!」
夏「『鈴鹿ひろ美みてえに なりでえ』って言ってた。」
かつ枝「ああ… 海女カフェでも しゃべってたもんな。『鈴鹿ひろ美が すげえ』って。」
春子「マジで?」
長内「鈴鹿ひろ美って あれか? 国鉄のポスターの。」
かつ枝「ああ んだ んだ。 今 BSの時代劇で 静(しずか)御前やってるべ。」
長内「うん。」
春子「だから いつか『女優になりたい』とか 言いだすんじゃないかと 思ってたけど あそこまで バカだとはね。」
海女カフェ
アキ「うん!」
ユイ「本気なの? アキちゃん。」
アキ「うん!」
ユイ「アイドルになりたいって ホントの思ってるの?」
アキ「分がんねえ。 売り言葉に 買い言葉みでえな気もするし 実は 随分前がら 考えてた気もする。」
ユイ「嘘 嘘… 私のせいかな。」
アキ「分がんねえ。 お座敷列車とか 海女カフェとか楽しかったし。 おらは ただ 人が集まる場所で 歌ったり 踊ったり 潜ったりして 周りの人が元気になれば それでいい。」
アキ「うん。 それが アイドルだっていうなら そうだし 海女さんだっていうんなら そうなんだべ。 ヘヘッ まあ アイドルなんか なれる訳ねえけどな。」
ユイ「そんな事ないよ。
アキ「え?」
ユイ「なれるよ。 …っていうか もう なってる。」
アキ「おらが?」
ユイ「うん。 そもそも アイドルの定義って 曖昧じゃん? 自称アイドルなんて ごまんと いる訳だし。 でも うちら 違うと思う。 今日のイベントだって 結局 200人近く 集まったじゃん。 東京でも通用するって。」
アキ「ごめん。」
ユイ「何?」
アキ「東京には行ぎだぐねえんだ。 ごめん。 いい思い出 一つもねえし 学校も嫌いだし 友達もいねえし 東京って聞くだけで 足が震える。」
ユイ「ユイと一緒でも?」
(携帯の着信)