1階
(戸が開く音)
夏「ただいま! あ~!」
ユイ「お帰りなさい。」
夏「ああ アキは?」
ユイ「春子さんと。」
夏「そうか。」
ユイ「お邪魔しました。」
夏「気ぃ付けてな。」
2階
アキ「聞いてけろ ママ。 おらが アイドルになりてえって 思ったのは ママの歌 聴いた時なんだよ。」
春子「え?」
アキ「かっこよかった。 御飯作ってるママや 洗濯物干してるママも 好ぎだけど 歌ってるママは 最高だど思った。 だいぶたってから 本物聴いたべ。」
春子「本物?」
回想
アキ「『新助! その火を飛び越えてこい!』。」
回想終了
アキ「鈴鹿ひろ美の『潮騒のメモリー』も かっこよかった。 やっぱり 女優は違うなあと 思った。 でも おら ママの歌の方が好ぎだ。 先に聴いたからかもしんねえが ママの歌の方が 本物だって思った。 今でも そう思ってるよ。」
春子「ありがとう。」
アキ「お座敷列車で歌った時 海女カフェで歌った時 楽しかった。 もちろん ママの足元にも 及ばねえが おらの歌が お客さんに届いたような気がして うれしがった。」
アキ「もっと届けてえ もっともっと 元気になってもらいてえ 1人じゃ無理だが ユイちゃんと2人なら やれそうな気がするんだ。」
春子「(ため息)」
アキ「駄目か?」
春子「分がんね。」
アキ「ママ。」
春子「何て 答えていいのか 全然分かんない。 ちょっと 待ってて。 お母さんに 聞いてくるわ。」
アキ「え?」
1階
春子「どうしたらいいか 分かんないよ。 夏さん…。 起きてよ 夏さん。 起きてんでしょう? あんたなら どうする? ねえ 夏さん!」
回想
春子「ねえ 母ちゃん! 私 やっぱり 海女やりたくねえ! 東京さ 行きてえ。」
回想終了
春子「ふん! あん時と一緒か。」
夏「待で!」