夏「何だって?」
春子「アキが東京行くって言って 聞かないの。」
夏「うん。」
春子「アイドルになるんだって。」
夏「うん。」
春子「どうしたらいいと思う?」
夏「行がせてやったら いいべ。」
春子「何で?」
夏「本人が 行きてえって 言ってるからだ。」
春子「私も 行きたかったけど。 同じように 私も夢があって 東京行きたくて オーディション 受けたいって相談したじゃん。」
夏「いつの話してんだ?」
春子「あん時 夏さん 私に 何っつったか覚えてる?」
夏「へへ! くっだらねえ。」
回想
夏「くっだらねえ!」
春子「お願い 二度とないチャンスだから 行かせて下さい!」
回想終了
春子「そんな冷たい夏さんがさ どうしてアキには 甘いの? 孫だから? 娘の事は 突き放したけど 孫の事は守るんだ。」
夏「…。」
春子「ねえ 答えてくんないとさ 私もアキに 何て言っていいか 分かんないんだよ!」
夏「なしてだべなあ。 やっぱし あん時の事が 引っ掛かってんだべな。」
春子「え?」
夏「母親として 娘の将来も 考えねばなんねえ。 同時に 海女クラブの会長として 地域の活性化に 貢献せねばなんねえ。」
夏「北鉄(きたてつ)が開通して あのころは みんな 前向いてたもんで。 地元のために 娘を犠牲にした事 今やっぱし 後悔してんだべな。」
春子「ちょちょ え やめてよ。 え?」
夏「あの晩 おめえは 本気で訴えかけてきた。 おらも 本気で応えるべきだった。」
夏「『大事な娘を 欲の皮の突っ張った 大人たちの犠牲にしたくねえ』って。 市長さんや 組合長さ たんか切るべきだった。」
夏「その事を ず~っと ず~っと 悔やんでたから。 おめえの顔 見んのが つらかった。 すまなかったな。 春子。 25年かかった…。 このとおりだ。 許してけろ。」