逃げる梅
梅「自分で書きいって」
音「お願い!あんた小説書いとるじゃん」
梅「たかがファンレターでしょ!」
音「たかがってなんなの?」
梅「お姉ちゃんは文章を勘違いしとるよ。美辞麗句並べたって伝わらんの。
梅「心から出た思いを綴らなきゃ」
音「適当なこと言っとらんでお願い」
梅「いかん!いかん!いかんファンレターくらい自分で書かなきゃ!それに作曲家にファンレターなんてそんなに届くの?」
音「お願いー」
梅「いかん!」
音「お願いー梅ちゃん」
梅「いかん!離せー!」
ファンレターは届いていました。想像を遥に超えて・・
ファンレターを書く音
音「古山裕一様」
音「突然のお手紙失礼します」
音「私は豊橋に住む関内音と申します。音という名前の通り、私は音楽を愛しています。竹取物語という題名、本当に素敵です」
音「実は私も子供の頃、かぐや姫を演じたので、大袈裟ですが運命を感じてしまいました」
音「いつかオーケストラが大きな劇場で演奏するのでしょうね。楽しみでしょうがありません。必ず東京でも海外でも駆けつけたい!いや、駆けつけます」
音「あなたのような天才が同年代に居ることに勇気づけられますと共に自分に焦りも覚えます。いつか、僭越ですがあなたの作曲した曲を舞台で歌える日があることを願っています」
音「あなたの魂を私は歌で伝える。そんな夢のような日を思い描いています。今後のご活躍を祈っています。お体に気を付けて。関内音」
返事を書こうとする裕一…だったが・・・
三郎「裕一!裕一!おい!あー」
裕一「父さん、なに?」
三郎「突然すまん」
裕一「なに?」
三郎「20超えたろ?」
裕一「うん」
三郎「酒!飲みいくぞ!痛てて」
裕一「もう、座ってて」
居酒屋
三郎・裕一「乾杯」
三郎「お!いいね」
裕一「あ」
三郎「ああ」
三郎「しかし、すげー賞取ったな。おめでとう」
裕一「怒ってっかと思った」
三郎「浩二はカンカンだ。母さんは不安がっている」
裕一「俺もあの人にどやされた」
回想
茂兵衛「これはどういうことだ!」
回想終了
裕一「ごめん、どうすっか決めてから報告するつもりだったのに」
三郎「ああ、いいんだ、いいんだ。しかしあれだな?賞金あんだべ?いくらだ?」
裕一「400ポンド」
三郎「ん?」
裕一「日本円で4000円くらいかな?」
せき込む三郎
今のお金で、およそ1200万円です。
三郎「おめー、それは凄えな!」
裕一「いやいや、留学費用だよ。イギリスまでの渡航費、学費とか生活含めてのお金だから」
三郎「それでも凄げえだろ!福島の片田舎の音楽学校にも行ってない男にそんな大金!おめー、俺の息子かー?」
裕一「俺、どうしたらいい?」
三郎「留学はいつからなんだ?」
裕一「9月の初めには出発しないと間に合わない」
三郎「5か月後か…時間があるような、無えような」
裕一「ごめん、音楽諦めてたつもりなのに」
三郎「うれしいことだべ?謝る話しじゃねえ」
裕一「父さんに音楽諦めんなって言われて、腹立ったんだ」
回想
裕一「残酷だよ、父さん」
回想終了
三郎「すまね」
裕一「言い訳みたいに聞こえっかも知れないけど、コンクールに応募したのも断ち切れない気持ちにけじめつけるためだったんだ」
三郎「でも、お前は成果を上げた。しかも物凄え賞だ!」
裕一「よく分かんない癖に」
三郎「お前は俺の自慢の息子だ。失敗ばかりの人生だが、唯一誇れるのはお前だ。まあ俺に任せておけ!」
関内家
ポストを見る音
音「んー」
岩城「待っとる時は来んよ。諦めた頃に便りは届く」
音「え?」