三郎「ひい~! 突き当りだな。」
光子「右にあります。」
三郎「うっ…。]
光子「お茶 いれてきます。」
音「どうして? 急に。」
裕一「分がんない。 勝手に言葉が出た。」
音「ほ… 本気。」
裕一「ほ… 本気。」
音「いいの?」
裕一「何が?」
音「私で。」
裕一「ぼ…。 音さん 音さん ちょっと こっち来て。 僕には 君しかいない。 音さん… や… やなの?」
音「私にも あなたしかいない。」
裕一「ありがとう。」
音「裕一さん。」
裕一「はい。」
音「結婚しても 歌手になる道は諦めない。 それでもいい?」
裕一「うん。 僕も望んでる。 2人で頑張ろう。 お互いにエール送り合って 音楽の道極めよう。 もう1度 言います。 僕と 結婚して下さい。」
音「はい。」
裕一「やった~ アハハ!」
戻ってきた三郎にお茶をかけてしまう光子
三郎「あちっ! あちちっ! あちあち…。」
裕一「あっ!」
音「えっ?」
仕切り直し
音「お父さんの浴衣来て並ぶと 何か夫婦みたい。」
三郎「冗談じゃねえ。 俺には まさっつう女房がいんだ。」
音「どんな方なんですか?」
三郎「優しくて思いやりがあって いっつも家族のこと考えてる女だ。 俺には もったいねえ。へへへ…。 …で どうすんだ? 裕一。」
裕一「音さんと結婚します。許して下さい。」
三郎「留学は どうすんだ?」
裕一「行く。」
三郎「2人じゃ行けねえぞ。」
音「私 努力して 力つけて 期待されるような 歌手になって追いかけます。」
三郎「お~ 見上げた根性だ。」
音「本気です!」
三郎「しかしな ここの家じゃ女が生きてえ道 生きんのが普通みてえだけど 世間は違うぞ。 裕一が養子に行く親戚は 特に頭が固い。」
裕一「父さん… 反対なの?」
三郎「俺は 男だからとか 女だからとかでねえ みんな 人間だ。」
音「お父さん… 全くそのとおりです! ますます 裕一さんと結婚したくなりました。」
三郎「さっきも言ったが そういう考えしてんのは俺だけだ。 歌手になれてえ女と 結婚許すとは思えねえ。 あんた… もし『結婚は許す。歌手は諦めてくれ』って 言われたら どうする?」
三郎「裕一 『結婚は許すが 音楽の道は諦めてくれ』と言われたら どうする?」
光子「三郎さん あなたが頼りです。 そちらのご一族を説得して下さい。 2人のために 2人の夢のために。 よろしくお願いします。」
三郎「あ… あんた さっきまで反対してたじゃねえか! なして 急に変わったんだ?」
光子「あの… 2人が… あの その…。」
三郎「何だ?」
光子「せっ…。」
三郎「何だよ はっきり言えよ。」
光子「あの… 2人が接吻しとるところを 見ちゃったの!」
裕一「いや… えっと…。」
光子「汽車は走り出しました。 もう止まれせん。」
三郎「どうにも あんたの言ってることが 理解できねえ。」
光子「裕一さん。」
裕一「は… はい はい! あっ… はい?」
光子「確かにあなたは未来を嘱望される作曲家かもしれんけど 私に言わせれば まだ1曲しか認められてない ひよっこよ。」
三郎「おい!」
光子「諸手を挙げて喜べる男じゃない。 それでも あなたに託すの。 何でだと思う?」
裕一「せ… 接吻したからですか?」
光子「バカ! 違う! あんたっていう人間を信じとるの。 頭は 駄目と言っとるけど 心が 行けって叫ぶの! だから… しょうがない。 許す! 私は。」
裕一「あ… ありがとうございます!」
三郎「支離滅裂だけど…。」
音「気持ちは伝わるでしょう?」
三郎「お父さん 大変だったろうな。」
音「黒蜜が出たって いつも言ってました。」
光子「音を幸せにすると誓って。」
裕一「は… はい。」
光子「『私 古山裕一は』。」
裕一「わ… 私 古山裕一は 音さんを幸せにすると誓います!」
光子「音。」
音「はい!」
音「私 関内 音は 裕一さんを幸せにすると誓います!」
光子「よし! あとは三郎さん 古山家の許しを頼みます。」
三郎「何だか分かんねえが… まあ 俺に任せとけ。 ハハハ… なっ!」