音楽学校
井上「やっぱ ヴィオレッタは 交代した方がいいんじゃないかね?」
豊子「本来なら 千鶴子さんなわけだし。」
西田「その方が こっちも気兼ねしなくて済むよな。」
ドアの前で聞いてしまった音
千鶴子「ちょっといい?」
千鶴子「やっぱり あなたは強欲ね。 あなたが どう生きようと構わない。 でも… 少しは周りのことも考えて。」
音「周りのこと?」
千鶴子「正直 みんな 戸惑ってる。 あなたに気を遣って 思いっきり練習ができないって。」
音「気を遣ってもらう必要なんてないです。」
千鶴子「そういうわけには いかないでしょ! 私だって… こんなこと言いたくないのよ。」
古山家
裕一「えっ 音 音? ちょ… 大丈夫?」
音「大丈夫」
裕一「いや いいよ… 僕 やるから。」
音「平気だって。 病気じゃないんだから。」
裕一「うん…。」
吟「ごめんくださ~い!」
裕一「うん? あっ… はい! はい!」
裕一「あっ お義姉さん こんにちは!」
吟「こんにちは。」
裕一「あっ どうぞ。」
吟「よいしょ…。」
裕一「あっ もう新婚生活 落ち着きました?」
吟「ええ おかげさまで。」
裕一「音! 吟さん 来てくれたよ。」
吟「フフフ。 妊婦さんって 酸っぱいもん欲しくなるっていうから これ!」
音「ありがとう。」
吟「裕一さん どう? お父さんになる気分は。」
裕一「あっ… いや まだ実感 湧かないですね。 あっ どうぞ どうぞ。」
吟「へえ~。 それにしても 早速 おもちゃだらけじゃない。」
裕一「いや 何か かわいいの見つけっとね つい買っちまうんですよ。」
吟「私も ついに 伯母さんか~。 お母さんも梅も すっごく喜んどったよ。」
裕一「お~。」
吟「梅は 東京に用事もあるから 近いうちに会いに来たいって。」
音「東京に何の用事?」
吟「あの子 また やる気出して 小説の文学賞に挑戦しとるみたい。」
裕一「ほ~う。」
吟「出版社に行くとか何とか。 よく知らんけど。」
音「そっか。 梅も頑張っとるんだね。」
吟「あんたの方は? 学校の手続きはしたの?」
音「手続きって?」
吟「退学するんでしょう?」
音「記念公演が終わるまでは通うつもりだよ。」
吟「えっ!? 何言っとるの。 あんた 妊婦でしょう?」
音「妊婦が学校通っちゃいかん 決まりでもあるの?」
吟「おなかの赤ちゃんに万が一のことがあったら どうすんの?」
音「気を付けとるから大丈夫だって。」
吟「でも あんた1人の体じゃないんだし…。」
音「分かっとるよ! いちいち うるさい!」
その場を去る音
裕一「あっ… すいません 何か。」
裕一「いや 何か すいません。」
吟「ううん。 妊婦さんの中には 気分が 不安定になる人もいるっていうし そのうち 落ち着くでしょ。」
裕一「…だといいですけど。」
吟「じゃあ また。」
裕一「ありがとうございました。 気ぃ付けて。 失礼します。」
吟「いいなあ… 赤ちゃん。」