如己堂
ユリカ「兄は こちらで寝泊まりしながら 執筆活動をしとります。
裕一「『如己堂』?」
ユリカ「汝に近きものを 己のごとく愛すべし。 兄が付けました。 古山さん いらっしゃいました。 私は仕事に戻りますけん。」
裕一「これ あの 土産です。」
ユリカ「あっ すいません。 ありがとうございます。」
裕一「ありがとうございました。」
裕一「この度は 訪問をお許し頂き ありがとうございます。」
永田「白血病で… 寝たきりになってしもうて こんな姿で失礼。 どうぞ。」
裕一「失礼します。」
永田「それで… 私に聞きたかこととは?」
裕一「先生の体験です。 どのようなお気持ちで 治療に当たられたのか。」
永田「歌詞は… 見れられたとですか?」
裕一「はい。」
永田「すばらしか歌詞だ…。 その上で 私ん気持ちなど いりますか? それに… 私ん気持ちは 本につづりました。」
裕一「だ… 題材が大きすぎて どこから着想していいのか…。 何か きっかけが欲しいんです。」
永田「あなたは…『露営の歌』や『暁に祈る』を 作ったとでしょう? 私も 戦争に 二度行きました。 よ~く歌いましたよ。」
裕一「すいません…。」
永田「なぜ… 謝るとですか?」
裕一「僕の歌が きっかけで… たくさんの若者が亡くなりました。 彼らのためにも この歌を作りたいんです。」
永田「贖罪ですか?」
裕一「はい。」
永田「私は…『長崎の鐘』を… あなたご自身のために 作ってほしくは… なか。 原爆は… 兵隊だけでなく 普通に暮らす何万もの命を… たったの一発で奪いました。」
永田「焦土と化した長崎 広島を見て ある若者が 神は本当にいるのですかと 私に問うたとです。 私は… こう 答えました。 落ちろ… 落ちろ… どん底まで落ちろ。 その意味… あなたに分かりますか?」
裕一「いえ…。 分かりません… 教えて下さい。」
永田「自分で見つけることが きっかけになるはずです。」
裕一「ああ… はあ…。」