連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第143話「人生は活動写真のように」

(おならの音)

絹代「うう! 言ってちょうそばから これですけん!」

修平「あ~ 今のは いい音がしたな! さしずめ 港を出て行く船の汽笛だ。」

布美枝「結構な音色でした。」

絹代「布美枝さんまで つきあわんでもええよ!」

修平「いい音色が出るという事は わしも まだまだ元気な証拠だぞ。」

布美枝「そげですね!」

修平「あ そうか。 喜子にも こげ 言ってやればよかったんだわ。」

布美枝「喜子が何か?」

修平「青春の悩みを 抱えとるようだったけん 人生は 流れる雲のようなものだと 言ってやったんだわ。」

布美枝「流れる雲ですか… なるほど。」

修平「いやいや 雲というのは いささか気取った 例えだったわ。 人生は 屁のようなものだわ。」

布美枝「え?」

修平「屁だ!」

絹代「また おかしな事 言いだした。」

修平「いや おかしい事ないぞ。 大きな音を立てて飛び出すが あっという間に 跡形もなく消えてしまう。 笑われもするし 嫌がられもするけれども すべては つかの間だ。」

修平「取るに足らんつまらんもので…。 けど やっぱり 面白いもんだわ。 どげだ! わしの屁の講釈 なかなか 深いだらが!」

布美枝「はい。」

客間

茂「ふ~ん。 イトツも うまい事 言うな。」

布美枝「私も 何だか感心してしまいました。」

茂「ハハハハ!」

布美枝「何ですか?」

茂「子供の頃 こたつ使って よう いたずらしとったんだ。」

布美枝「え?」

茂「兄貴と俺と光男とで まず たっぷりと芋を食う。 イトツが 仕事から戻ってくる頃を 見計らって 兄弟一致協力して こたつの中に 屁をため込んでおくんだ。」

布美枝「え~っ!」

茂「仕事から帰った イトツが 布団を めくった途端に 強烈なにおいが!」

布美枝「うわ~ 信じられんわ!」

茂「ハハハ! イトツも一緒になって 笑っとったぞ。 算数が 零点でも 一度も 叱られた事は なかったなあ。 絵を描くと うまいうまいと 褒めてくれた。」

布美枝「油絵の道具 お父さんが 買ってくれたんでしたね?」

茂「ああ あの頃 あげな物 持っとる子は 境港で 俺一人だったなあ。」

布美枝「ええ。」

茂「イトツが仕事で 大阪に行ってしますと 家の中が し~んと寂しいんだ。 しばらく 誰も口をきかんのだ。」

茂「イトツが大阪から戻ってくる日は イカルも朝から  ウキウキしとった。 香水なんかも つけとって。 イカル いつもより ちょっこし きれいに 見えたなあ。」

布美枝「お父さんがおられん間 一番 寂しい思いしとったのは お母さんかもしれませんね?」

茂「うん。 そげかもしれんなあ。」

両親の部屋

絹代「お父さん。」

修平「ああ。」

絹代「あんまり 根つめたら いけませんよ。」

修平「ああ…。」

絹代「楽しみですねえ 出来上がるの。」

修平「何か 言ったか?」

絹代「あ いえいえ 何にも。 よいしょ!」

玄関

昭和五十九年十月

(小鳥の鳴き声)

隣家の主婦「こんにちは!」

布美枝「こんにちは!」

隣家の主婦「あら! すいませんね。」

布美枝「いえいえ!」

隣家の主婦「今日は 何だか肌寒いですね!」

布美枝「もう 秋の風ですね!」

隣家の主婦「ねえ! これ 頂き物なんですけど よかったら。」

布美枝「あら すいません! 立派な くりですね!」

台所

布美枝「お隣さんから 頂きました。」

茂「おう 見事だな!」

布美枝「お父さんがお好きだけん くりご飯にしましょうか?」

茂「ああ。 なあ イトツが ゆうべ ポツリと言っとったぞ。 境港に 帰りたいそうだ。」

布美枝「え?」

茂「今じゃないぞ。 死んだら 境港の墓に 入れてくれと 言っとった。」

布美枝「そげですか…。」

茂「こっちに来て 20年近くなるのに やっぱり 戻りたいもんなんだな。」

両親の部屋

布美枝「お母さん!」

絹代「はい。」

布美枝「病院に行く時間ですよ。」

絹代「あら! ほんとだ。」

布美枝「お父さんは?」

絹代「また 眠っとるわ! 近頃 寝てばっかり。」

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