連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第38話「消えた紙芝居」

靖代「(小声で)ちょっと! 見かけない人だね。」

徳子「ほんと。」

美智子「いらっしゃい! お客さん うち初めてですか?」

和枝「ねえ あの荷物 押し売りじゃない? ゴムひもや何かの。」

徳子「近頃多いから 押し売り。」

靖代「確かに多いわよね。」

キヨ「立ち読みは お断りだよ。」

富田書房

茂「富田さん! どういう事ですか?! 『墓場鬼太郎』 もう3冊も出しとるのに 原稿料は まだ 1銭ももらっとらんのですよ!」

富田「だから もうちょっと 待ってよ。」

茂「『もうちょっと もうちょっと』って いつになったら 払ってくれるんですか!」

富田「ちょっと落ち着いて。 ね? 悪いけど こっちにも 事情ってものがあるんだよね。」

茂「…まさか 払わんつもりですか?!」

富田「いや 払わないなんて 言ってないでしょう? もうちょっと 待ってって お願いしてるんじゃないの!」

茂「お願いしたいのは こっちです! このままでは 女房と2人 人間の干物になるんですぞ!」

富田「お! それ いいね。 次の『鬼太郎』でどう? 妖怪『干物人間』! ハハハ!」

茂「冗談を言っとる場合じゃない!」

富田「払える金があるんだったら 私だって払いたいよ! ない袖は 振れん!」

茂「振れないって あんたねえ…。」

富田「こんなに 資金繰りが 難しくなったのは あれの影響が大きいんだけどな!」

茂「ん?」

富田「『少年戦記の会』の赤字。」

茂「しかし あれは あんたと浦木で 決めた事ですけん 責任は そっちに。」

富田「水木さん。 あんたと私は 長い事 共存共栄で やってきてるじゃない!」

茂「金も払わんで なにが共存共栄ですか?!」

富田「ええ? 忘れちゃったのかな? あんたの漫画 処女作出したのは うちだよ! あれは 3年前だ。 まだ紙芝居しか 描いた事のなかった あんたに 漫画本 丸々1冊頼んだの私だよ。」

富田「経営者としては 英断だったね。 恩を着せるつもりは ないけどさ… こんな時ぐらい もうちょっと 待ってくれたって いいんじゃないの?」

水木家

玄関前

(小鳥の鳴き声)

布美枝「はあ~!」

(足音)

布美枝「あ! お帰りなさい。 どげでした? はあ…。」

茂「富田のケチおやじは デビュー作を 出してもらった恩がある。 それを持ち出されると 強くも言えん。」

布美枝「そげですか…。」

茂「うん。 金が入るのは ちょっこし 先かもしれんな。」

布美枝「はあ…。」

茂「厳しいかね?」

布美枝「ええ。 まあ なんとか。」

茂「あ… 下宿代は もらったのか?」

布美枝「まだです。 中森さんも 近頃 苦しいらしくて。」

茂「あの人も 漫画の注文が 来んようだけんな。 いや 同情しとる場合じゃない。 催促してくる。」

2階

茂「失礼しますよ。」

中森「(せきこみ) あ どうも。」

茂「何しとるんです?」

中森「ハハハ! お茶っ葉を いってるんですよ。 ちょっと おしょうゆを垂らして 飯のおかずに。(せきこみ) 風邪をひきましてね これで ビタミンCが とれるんじゃないかと。(くしゃみ) ちょっと 失礼!」

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