チヨ子「フミちゃん また 猫背になっとるよ。」
布美枝「あ いけん いけん。 ついつい 背を低く見せようとして。」
チヨ子「まだ 引きずっとるね お見合いの事。」
布美枝「そんなすぐには 吹っ切れんわ。」
チヨ子「昔から 電信柱とか 日陰の菜っ葉とか からかわれては傷ついとったけん。」
布美枝「それを言わんでごしない。」
チヨ子「いっぺん 断られたくらいで 気にする事ないよ。 次は もっと ええ話が来るわ。 かえって よかったかもしれんよ。 フミちゃん 家の事 心配しとったんだし。」
布美枝「うん。 私がおらんと うちも まだ 手が足りんけんね。 よし! もうしばらく 酒屋の看板娘で 頑張るか!」
飯田家
回想
源兵衛「客を見下ろすほど 背が高くては いけんと言うそうだ。」
回想終了
想像
若主人「フミちゃん!」
布美枝「は~い!」
想像終了
登志「布美枝 あ ちょっと おいで! これ お前に あげるわ。 嫁入り道具に 持っていくとええ。」
布美枝「何 言っちょ~ね? 私 断られたんだよ。 お嫁には 行かん。」
登志「いずれは行くんだけん その時まで しまっといたら ええよ。 今のうちに 渡しとかんとな おばばも年だ。 いつ どげんなるか 分からん。 どげした?」
布美枝「もらってくれる人 どこかにおるんかな?」
登志「ハハハ! 何 言っとる?」
布美枝「女の背が高いのは やっぱり いけん。 会っても もらえんだけん。 釣り書きだけで 私 落第したよ。」
登志「それは違うな。 落第したのは『にしきや』さんだわ。 背がどうの言って 会ってみようともせん相手なら お前の嫁入り先としては 不合格だて。 落第だ。」
布美枝「おばば…。」
登志「今回は ご縁がなかった それだけの事だが。 一緒になる人とは きっと ご縁の糸で結ばれとるよ。」
布美枝「ご縁の糸。 そげなもの ほんとに あるんかな? 結んであるの 見た事ないけんね。」
登志「見えんでもある。 ちゃんとあるよ。 この世には 目に見えんもんが たくさんあるけん。 子供の頃の 布美枝は その事 よう知っちょったよ。」
布美枝「おばば…。」
登志「これはな おばばが嫁に来る時に 母親からもらったもんだ。 紅のサンゴ玉は 良縁のお守りだ言うてな。 お前に あげようと思って ず~っと 取っておいたんだ。 はい。! よい ご縁がありますように。」