村岡家
玄関前
英治「父さん!」
平祐「おお…。」
英治「花子 まだ戻ってませんか?」
平祐「ああ。」
英治「僕が目を離したりしなければ…。」
「おばさん ナミダさんのお話 して!」
「僕は みみずのフト子さんの話がいい!」
蓮子「はなちゃん!」
英治「花子さん! 心配したよ…。」
花子「早くに目が覚めてしまって… 散歩に行っただけよ。 そしたら この子たちに…。」
「早く お話聞かせて!」
「早く 早く! おばさん お願い! お願い!」
庭
花子「『それでも 雲は 勇ましく こう言いました。『下界の人たちよ。 私は 自分の体が どうなっても構わない。 あなたたちを助けよう。 私は 自分のいの… 自分の命を… あなたたちにあげよう』』。」
「おばちゃん どうしたの?」
花子「ごめんなさい…。 続きは また今度ね。」
「ありがとう。 またね!」
「今日は 歩君 どうしたんだろう?」
「いないね。」
居間
平祐「英治。 ちょっと。」
工房
平祐「花子さんまで失っていいのか? 散歩に行っただけだと 言っていたが 本当だと思うか? 郁弥が亡くなった時 私は 郁弥のそばに行きたいと願った。 花子さんの気持ちは よく分かる。」
英治「僕にも 分かります。」
平祐「だったら 花子さんと ちゃんと話をしろ。 お前だって つらいのは 分かってる。 しかし 花子さんの悲しみを 受け止めてやれるのは お前しかいないんだぞ。 歩が死んだのは 誰のせいでもないんだ。」
縁側
英治「僕を置いて 一人で歩のところに 行こうとしたんじゃない?」
花子「海に連れていけばよかった…。 歩… あんなに 海に行きたがってたのに…。 晴れたら行こうねって 約束したのに… 私が破ってしまって…。 仕事なんかしないで… 海に行けばよかった…。」
蓮子「行きましょうよ…。 これから 海に行きましょう。 ねえ。 行きましょう。」