庭
吉太郎「へえ~ 上手だな。」
美里「テルが兵隊さんを お助けしてるところよ。」
吉太郎「テルは?」
美里「兵隊さんのために働きに行ったの。」
吉太郎「兵隊さんのために? お母ちゃまが そう言ったのか?」
美里「テルが帰ってきたらね いっぱい褒めてあげるの。 ご褒美もあげるのよ。」
もも「(小声で)美里ちゃん 毎日 待ってるの。」
美里「早く帰ってこないかな~。」
吉太郎「美里。 テルは お国のために 身をささげて働いてるんだ。」
美里「でも 帰ってくるんでしょ?」
もも「お仕事が終わったら 帰ってくるって お母ちゃま 言ってたものね。」
美里「美里がいい子にしてたら 早く帰ってきてくれるわよね。 伯父ちゃま?」
吉太郎「帰ってこられなくても テルは お国のために 立派に尽くしたという事だ。」
もも「兄やん。」
美里「テル… もう帰ってこないの? やだ! そんなの嫌!」
もも「美里ちゃん!」
工房
美里「お父ちゃま!」
英治「ん? 美里 どうした? ん? どうした 美里?」
旭「お義兄さん いらしてたんですか!」
吉太郎「申し訳ありません。 自分が 余計な事を言ってしまって…。」
JOAK東京放送局
廊下
漆原「ああ どうも。」
花子「ああ… ごきげんよう。 よろしくお願い致します。」
有馬「あんなにも浮かない顔で 『ごきげんよう』もないものです。」
漆原「原稿さえ読み間違えなければ いいんだ。」
応接室
花子「(ため息)」
(ドアが開く音)
黒沢「村岡先生。 動物のニュースがありました。 いいニュースですよ。」
スタジオ
花子「この軍用犬の中には 皆さんのおうちで飼われていた 犬も たくさんいます。 その中の あるおうちで飼われていた犬が 隠れていた敵を見事に探し出し…。」
黒沢「はい ありがとうございます。 このぐらいの速さで 本番も よろしくお願いします。」
花子「はい。」
有馬「正しい発音 活舌に注意! 一字一句 原稿は 正確に!」
花子「はい。」
有馬「逓信省の目が 厳しくなっていますからね。 原稿を正確に読む事は ますます重要です。」
花子「はい。」
村岡家
居間
英治「おいで 美里。 ラジオ 始まるよ。」
もも「美里ちゃん。」
有馬『さて 続きましては 村岡花子先生の 『コドモの新聞』であります』。
英治「ほら 美里。 お母ちゃまの出番だよ。」
花子『全国のお小さい方々 ごきげんよう。 『コドモの新聞』のお時間です』。
JOAK東京放送局
スタジオ
花子「さて 次は 犬の兵隊さんに 功労賞が贈られたというお話です。」